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 【花主】「あそこでのの字を書いてるのが自分の恋人です」・3(END)

* いじける恋人に10のお題 * お題配布元 >> Abandon様

やっとの事で3(END)です。なんだかんだで一番長くなりました…。ほんと加減が難しい。

二つ悩んだオチは結局こっちになりました。まあ、もう片方も想像すれば大体当たるオチなんですけどねorz

そんな訳で。堂島家コミュ(特に菜々子コミュ)ネタバレ含みますので注意。

花村視点です。



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*****

「お兄ちゃんの事なんだけどさ」
「うん?」
「その……えーっと、女の人から電話かかってきたり、する?」

反則かもしれないが、孝介に直接聞くのはかなりの度胸がいる。本当にこれで恋人なのかと自分でも思うくらいヘタレなのは重々承知しているが、怖い物は怖い。

「うん、ユキちゃんとチエちゃん、あとりせちゃんとー」

まあ、特捜の女子とは確かに電話するだろう。けれどこの場合彼女達は問題外だ。

「ほ、他には?」
「うーんと、あ!」

菜々子の反応に心臓がバクバクと音を立てる。陽介は耳を塞ぎたい気持ちを必死にこらえて、代わりに目をぎゅっと閉じた。

「お兄ちゃんのお母さん」
「あー…………」

力が入っていた分、がくりと気が抜ける。
それもまあ、確かにあるだろう。意図とする答えが出てこないのを喜んでいいのか悲しんでいいのか。けれどここで引き下がるわけには行かない。陽介は大きく息を吸い込むと塞いだ目を抉じ開け、もう一度菜々子に質問した。

「じゃ、じゃあ、お兄ちゃんの携帯の待ち受けの女の人って誰だか知ってる?」
「まちうけって?」
「あ、そか、待ち受けってのはここに出る写真の事なんだけど……」

陽介が自分の携帯を取り出して開きそこに現れる画面を菜々子に見せると、菜々子は嬉しそうな笑顔を浮かべた。

「あ、知ってる! あれ菜々子がおねがいしたの! だって、そうすればいつでも会えるってお兄ちゃんが」
「え?」

予想外の返答に陽介の思考がフリーズする。菜々子がそんなに会いたがる相手。そこまで菜々子と仲の良い、雪子でも千枝でもりせでもない女子。そんな人間がいるという恐れていた事実。

「よーすけお兄ちゃんも見た?」
「い、いや、俺……は、見てないんだ」

嬉しそうにはずむ菜々子の声に、何とか返事を返す。が、頭の中は真っ白だ。

「じゃあ、お兄ちゃん帰ってきたら見せてあげるね!」

見たい事は見たい。こうなったらその姿を拝んで置くべきなのだろう。が、その勇気が今の陽介にかき集められるだろうか。

「菜々子ちゃんは、その人のこと大好きなんだ?」
「うん! 大すき!」

今度こそ思いっきりがっくりと頭を垂れた。駄目だ、これは痛恨過ぎて立ち直れそうに無い。そんな陽介の様子に菜々子が困惑している気配が伝わってくるが、なんでもないことの振りはさすがにできそうにない。と言うか、ぶっちゃけ泣きそうだ。みっともなさ過ぎて顔を揚げることもできない陽介の頭に小さな手のひらがのった。

「だいじょうぶ? 菜々子、よーすけお兄ちゃんも大すきだよ?」

その撫で方が孝介のそれにあまりにも似ていて、陽介の胸がぎゅっと締め付けられた。

(バカじゃん、俺)

怖がって孝介に直接聞きもせず、こんな風に小さな女の子に気を使わせるなんてヘタレにも程がある。こんなことやってたらそりゃ孝介に愛想をつかされてもしかたないし、こんな自分だから孝介との関係に自身が持てないのだ。
自分のバカさ加減を自覚したところで、陽介はうっかりこぼれた涙を拳で軽くふき取ると、精一杯の笑顔を菜々子に向けた。

「サンキュ、俺も菜々子ちゃん大好きだ」
「えへへー」
「よーし、ギューってしちゃうぞーっ」

言うが早いか陽介は菜々子を膝に乗せて、背中からぎゅっと抱きしめた。嬉しそうにきゃあきゃあと笑う菜々子を右に左に揺すりながらじゃれていると、玄関を開けるがらがらと言う音がして孝介が帰ってきた。

「あ、お兄ちゃんおかえりなさい」
「お帰りー」
「ただいま。って二人で何やってるんだ」

嬉しそうに出迎える二人に孝介が僅かに眉をひそめる。そして醤油の入った袋を台所のテーブルの上に置き二人のそばに寄ってくきた。そんな孝介に菜々子が更に嬉しそうに報告する。

「あのね、よーすけお兄ちゃん菜々子のこと大すきだって! ねー」
「ねー」

菜々子が向ける同意の笑顔に陽介は同じものを返す。とたん、菜々子が何か思いついたように両手を合わせた。

「じゃあ、よーすけお兄ちゃんもほんとのお兄ちゃんだね!」
「ほんとのお兄ちゃん?」
「うん! 大すきならほんとなんだって、お兄ちゃんが言ってた」
「へーぇ、優しいじゃん、お兄ちゃん」
「うるさい、いい加減菜々子から離れろ」

ニヤニヤとした顔でからかう陽介に、孝介が目じりを赤く染めながらぶっきらぼうに言い放った。

(大好きなら“ほんと”、か)

もうそれでいいやと思う。自分が孝介を大好きなのは“ほんと”だし、孝介が自分を好きだと言ってくれたのも“ほんと”のことだ。それで充分。たとえほんとに待ち受けに女子の写真があったとしても、このことだけは間違い無く“ほんと”のことだ。今度こそ本当に陽介の腹が座った。何が出てきても驚くまいと、菜々子を膝から下ろして陽介は居住まいを正すと、孝介に待ち受けのことを切り出そうとした。

「ねぇお兄ちゃん。菜々子しゃしん見たい」

が、それより早く菜々子がそれを孝介にせがんだ。さすがに陽介もちょっと驚いたが、心の準備も出来ていたので何とか持ちこたえる。

「あ、ああ、ほら」

孝介はポケットから携帯を取り出すと、開いて菜々子に手渡した。それを嬉しそうに受け取ると、菜々子はそれを持って陽介の隣に腰をおろし、陽介に見えるように差し出してきた。恐る恐る画面をみるとそこには優しそうな顔をした女子…………と言うより女性が一人写っていた。

「これ、菜々子のお母さん」
「……………………え? ええ?!」

一瞬何のことかわからず思考が停止しかけたが、次の瞬間陽介は菜々子の手から奪うようにして携帯の画面を凝視した。言われて見れば確かに、目元とか雰囲気とか、菜々子によく似ている。でも何だって孝介の待ち受けが菜々子の母親なのかさっぱりわからず、待ち受けと孝介の顔とを交互に見比べる。その様子に陽介が何を言わんとしてるのか察した孝介は、その手から携帯を取り返し、改めて菜々子に渡しながら口を開いた。

「叔父さんが持ってる写真を写メったんだよ。叔父さんは菜々子が持っていても良いって言ったんだけど、菜々子が汚しちゃうから返すって。だからこうしておけば汚れないし、いつでも見せてあげられるだろ? 必要ならジュネスに行って写真にもできるし」
「ま、まあな」

あまりにあまりな事実に、陽介はただただ驚くばかりだ。けれど、横でうっとりと自分の母親の写真を見つめる菜々子を見ているうちに、安堵の笑いがこみ上げてきた。

「花村?」

くっくっくと声を殺すように、そして涙を浮かべながら苦しそうに腹を抱えて笑う陽介を、孝介はいぶかしそうにみつめる。が、その問いに片手を振って『なんでもない』と陽介が答えるものだから、まったく持って訳のわからない孝介は首をかしげた。とたん、目に時計が飛び込んでくる。その時間をみて孝介は慌てて台所にとって返した。
がしゃがしゃと夕飯の仕度の続きにとりかかった孝介の背中を見ながら、陽介はやっとのことで笑いを収め、一日分の詰まった息をふっと一気に吐き出した。

(ほんと、妹思いのイイお兄ちゃんじゃねェか)

「ねえねえ、よーすけお兄ちゃん。菜々子お母さんとにてる?」
「おう、似てる似てる! すげーそっくり! 菜々子ちゃんきっと美人になるぞー」
「ほんと!?」
「ぜってーほんと。俺が保障しちゃう」
「わーい、えへへー」

携帯を抱きしめて可愛らしく照れる菜々子を見て、陽介はハタと思いついた。

「そうだ、菜々子ちゃん一緒に写真撮ろうか!」
「え? でもカメラないよ?」
「あるじゃん、ここに」

テーブルの上に置きっぱなしになっていた自分の携帯を手にとって陽介が軽く振ると、すぐに菜々子はそのことに気が付いた。

「あ、そっか! とるとる! 菜々子しゃしんとる!」
「じゃ、こっち来て……そう、さっきみたいに膝にのって」
「こう?」

じゃれてた時と同じく陽介の膝に腰をかけた菜々子を左腕で支えながら、もう片方の手で携帯を操作しカメラを起動させる。そして、カメラを内側に切り替えて天井にかざした。

「そうそう、じゃ、ここ見てて」

菜々子にカメラの場所を教えるとフレームに二人が上手くおさまる様に位置を調整する。音を立ててシャッターが降りたと同時に『あ』と菜々子が声を上げた。

「お兄ちゃんもいっしょがいい!」
「おっし、じゃあ次は一緒に撮るぞ! 菜々子ちゃん、お兄ちゃん呼んで来て」
「うん! お兄ちゃーん」

菜々子が膝から立ち上がって台所の孝介を呼びに行くと、陽介はソファへと移動する。そして孝介を引っ張ってきた菜々子をこちらに呼び寄せた。

「何だよ菜々子、お兄ちゃんご飯作ってるんだぞ」
「ちょっとだけ、ね」
「そうそう、ここ座って」

陽介が反対側の腕を引いて孝介を隣に座らせる。二人がぴったり並んでしまったので、菜々子の居場所が無い。

「菜々子は?」
「こーこ」

困惑する菜々子に、陽介は孝介と二人の膝の上を叩いて見せた。とたん、ぱあっと顔を明るくして菜々子がそこへ上がってくる。

「ちょ、お前達いったい何を」
「家族写真撮影会です」
「です!」
「ほら、ここ見てここ。行くぞ? はいチーズ」

カシャリ、とシャッターの音がして、次の瞬間には二人のほんとのお兄ちゃんに囲まれて嬉しそうに笑う菜々子の写真が現れた。

「どれどれ? おお結構良くとれたじゃん。じゃあ、これは俺の待ち受けにしとくからな、菜々子ちゃん」
「うん!」
「え、おい。花む……!?」

ぴょんと菜々子が畳の上に飛び降りたその隙を狙って、陽介はもう一枚写真を撮る。現れるのは陽介と孝介のキスシーン。

「お、これもイイ出来! こっちにするか? 待ち受けっと!」
「!!」

くるりと画面を回して見せたその写真に孝介が顔を真っ赤にして、携帯を奪い取ろうと掴みかかって来た。が、すんでの所で陽介はそれを死守する。

「よこせ」
「やーだね」

ニヤニヤ笑いの陽介と、引きつり笑いの孝介が見つめあっていると、

「けんか?」

それに気づいたのか菜々子がさみしそうな声で問いかけてきた。慌てて二人はその場を取り繕う。

「違う違う。けんかなんかしてないよ」
「そうそう、とーっても仲良しだぞ? な!」

ぎこちなく二人が肩を組んだのをみて、『ならいい』とつぶやいた菜々子が更にお腹をさすった。

「お兄ちゃんごはん」
「ああ! ごめん、もうすぐできるからそこ片付けて! ほら、花村も!」
「お、おおう、って、ヤベまだ俺うつし終わってねぇじゃん!」
「おーう、今帰ったぞー」
「あ、おとうさんだ! おかえりなさい! あのね、お兄ちゃんたちとしゃしんとった!」

堂島の帰宅で更に携帯の写真どころではなくなり。ため息をつく孝介の隙をみて、陽介は自宅のパソコンに添付メールを送りつけた。




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