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 【花主】「あそこでのの字を書いてるのが自分の恋人です」・1

* いじける恋人に10のお題 * お題配布元 >> Abandon様


すみません、ちょっと長くなり過ぎたので分けます。
続きはまた日を改めて。

さらにカプ話なのに現段階で主人公がいないこの不思議。

花村視点です。



*****

「これで三分待てば良しっと」

机の上には良く見知ったパッケージのカップラーメンが三つ。陽介、千枝、雪子の前にお湯が注がれた状態で置かれていた。後は出来上がるのを待つばかりだ。
今日はかなりいい天気のせいかお昼休みの教室はいつになく人が少ない。ぐるり見渡しても、窓際の席に二人ほど座っているぐらいで、後は陽介たち三人だけだ。孝介も先ほどチャイムと同時に弁当箱を下げて出て行った。せっかくの孝介自作の弁当にありつけないのは寂しくもあるが、夕べは孝介のうちで夕飯 ― もちろん孝介のお手製 ― を御馳走になった陽介は、そこは広い心で笑って送り出した。
そして、自分はこうしてカップラーメンの完成を心待ちにしている。とは言っても女子二人はともかく、陽介はとうに持参した昼食は平らげてしまって、これが二食目。放課後はまたテレビの中に行くのだし、腹を膨らませておくに越したことはない。それまでにはおそらくもう一食何かしらを腹に入れることになるだろうがそれはそれ。育ち盛りの男子高校生の胃袋は底知らず ― あの大谷には敵うはずもないが ― だ。
それに、陽介には少しでも多くの栄養を取り込んでおきたい切実な理由がある。

身長、だ。

現在の陽介の身長は一七五センチ。高校二年の平均からみたら別に低いわけじゃないけれど、クマを除けば特捜で一番背が低いのがどうにも気になって仕方がない。まあ、どちらかと言えば残り二人が高すぎるのだが、せめて後十センチは欲しい。

(とかって、カップメン食っても栄養面はイマイチか)

それが無理なら五センチでも良い。ともかく孝介よりは高くなりたい。

(踵上げないとキスも出来ないなんて、マジ情けねぇ)

これを食べたら絶対背が伸びるという物があるのなら、毎日、毎食食べることも持さない構えだ。いっそのこと牛乳でも毎日数本飲んでやろうかと半ば本気で考える。

「花村? 何難しい顔してんの」
「ん? あー」

そう言えば、ジュネスの今週のチラシに安い牛乳が載っていたはずだ。バイト帰りにでも買って帰ろう。

(いや待てよ、それまで残ってないかも。早めに売り場でゲットしておいた方が……)

「おーい花村ってば、早くしないとのびちゃうよー」
「だな、善は急げ、牛乳最強」
「は? 意味わかんない」

できかけのカップラーメンを目の前にして、一人思考の波にたゆたっていた陽介のトンチンカンな返答に、千枝が突っ込んだ。その冷静な声音にやっと陽介が現実に戻ってくる。

「ラーメン、のびるって言ってんの」
「あ? ああ、ラーメンか、だよな、うん、わりぃわりぃ」

あわてて蓋を開けて割り箸を突っ込み引き上げた麺は確かにのびかけだ。ちょっとがっかりしながらも、陽介はずるずると麺をすすり始めた。

「で、牛乳って何」

ついいつもの調子で箸を持ったまま手を振る千枝を見て陽介は『行儀わりぃな』と眉間に皺を寄せる。千枝もやってしまってからしまったと思っただけに、『う、うっさい。ちょっとうっかりしただけでしょ!』と噛み付きながらも素直に箸を下ろした。

「そう言えば私聞いたことあるよ。シーフードのラーメンを牛乳で作るとクラムチャウダーみたいになって美味しいんだって。確か商品化もされたんじゃないかな」
「マジで? なんかすごいゲテモノっぽいんですけど!」
「や、お前らの料理の方が明らかにゲテモノだから」
「何か言った?」
「いーや全然、なーんも。つか早く食わないとのびるぞ」

林間学校の悪夢が蘇りそうになって、陽介は慌てて目の前のラーメンを平らげにかかる。『だからさっきからのびるって言ってんじゃん』と千枝は怒ったが、牛乳に関してはうやむやになったようなのでその辺は結果オーライだ。

「そう言えばさ、花村に聞きたいことあったんだけど」

それぞれに自分のペースでラーメンを平らげた後、千枝が思い出したように陽介に向き直った。

「なんだよ? テストの点なら企業秘密だぞ」
「んなの聞きたい訳ないじゃん。つか、あたしだって言いたくない」

定期テストの結果は相変わらず散々で。孝介に泣きついて教えてもらったところが少しは点になった程度だ。一方孝介はさらりと学年トップに輝いている。卒が無いと言うか隙が無いと言うか。『ちったー可愛げ見せろってんだ』と思いながらも、そんなところも好きなんだからしかたない。

「いや、実はさ。月森くんのことなんだけど」
「あいつが何」
「あー……なんか、彼女できたとか聞いてない?」
「はぁ?!」

彼女? 孝介に彼女?

『俺がいるのに?』

と危うく口に出そうになり、手のひらでそれを押さえる。

「んな驚くトコ?」
「…………驚くだろ!」
「そうかな。月森くん頭良いし、運動もできるし、何よりかっこいいし、女子にはかなり人気高いよ」
「あ、花村も人気高いよ? 黙ってればだけど」
「んなこと誰も聞いてねぇ。つかそんなフォローいらねぇ!」

確かに孝介は人気が高い。それに、実は結構前からここに住んでいたんじゃないかというほど顔が広い。陽介の知らない知り合いも少なくないので、彼女がいるかもと思われるのは……まあ仕方ないことだろう。普通に親友としてなら別段不思議に思うことじゃない。
でも、孝介は陽介の恋人なのだ。あえてそれを触れ回る気はないが、孝介の下駄箱に手紙やらプレゼントやらが入っているのを見るたびに、『こいつは俺のだ』と宣言したくなる。

(ま、できねぇけど)

所詮男同士。それに対して卑屈になってる覚えはないが、街中で手を繋ぐことすらはばかられる関係というのはなかなかに難しい。時には我慢できなくなって、じゃれる振りをして抱きつくことある。事故を装って唇を掠め取りなくなることもある。基本スキンシップは余り好きじゃないのに、孝介に関してだけはそうはいかない。これも恋のなせる業だろうか。

「で、ほんとのトコどーよ?」
「んなの、いねぇよ」

『彼女』は。『恋人』ならいるけどなと心の中でつぶやく。

「じゃ、今フリーってことかな」
「あー……好きな人はいるとか言ってたような気もすんな」

このくらいは許して欲しい。せめてもの牽制だ。

「マジで? じゃあその子かなぁ」
「なにがだよ」

嫌な予感が陽介の脳裏を過ぎる。それを振り払うまもなく千枝の口から爆弾が投下された。

「月森くんの携帯の待ち受け」
「そう言う事しそうにないのにね、彼」
「うん、ちょっと意外だわ、花村だったらわかるけど。って花村?」

あまりの事に陽介の表情は一瞬で消える。それに気づいた千枝が目の前で手をひらひらとさせた。

「…………な、菜々子ちゃんじゃねぇの?」

やっとの事で出た言葉に一縷の望みをかける。が。

「うん、あたしもそう思ったんだけど、どうも違うみたいなんだよね」
「みたいって何だみたいって! はっきりしろよ!」
「うっさいなー、あたしだって見たって子から聞いただけで良く知らんの。だから花村に聞いてんじゃんよ」
「ぅう…………」

そう言う危険な話題を確固たる証拠もなしに振らないで欲しい。陽介はあまりのダメージに勢い良く机に突っ伏した。その拍子にガツンと大きな音を立てて額を打ったがそんな事すら気にならない。

「ちょ、花村……すごい音したけど大丈夫?」
「大丈夫……」

じゃない。誰かディアラハンなんて贅沢は言わない、ディアで。SP勿体無いって言うなら練りわさびゼリーでもこの際文句は言わない。いや、そもそもそんな事でこのダメージは消えそうもない。なまじ身体の傷より性質が悪い。

「でもさ、花村くんが知らないって言うなら、その話自体あやしくない?」
「まあね。だいたいおいて彼が転校してきてからすぐ事件起こったし、彼女なんて作ってる暇無くない?」

突っ伏したままの陽介は放置して、千枝と雪子は事の真相を推理し始めた。

「つか、むしろ雪子だって言うならあたしも納得なんだけど」
「え、それありえないから」

孝介の事を気にしている割には、どうやら二人とも対象外らしい。それはそれで身近に危険がないことで喜ばしいが、逆に事の真相の予想がまったく付かない。

「ね、ねぇ……まさか、完二くんなんて事ないよね」
「まっさかー。いくらなんでもそれはないっしょ。そもそも待ち受け女子だし」
「だよね、うん、ごめん」

二人も迷走しているらしく、およそあり得ない選択肢まで出てくる始末だ。こうなったら本人に直接聞いてみる以外、正確な事はわかりそうもない。

(てーか、俺! 何でこんなに不安になってんだよ)

孝介は自分の恋人だ。そりゃ色々ままならないことはあるが、キスだってしたし、それ以上だって……。

(出来てねぇけど)

なんだかんだと忙しい上に、なかなか二人っきりで過ごせる時間もない。なので、実の所『まだ』だった。

(しょうがねぇじゃん、うちは母親いるし、あいつんちはあいつんちで菜々子ちゃんいるし)

高校生の自分達より明らかに早く帰ってくる従妹を放っておける孝介ではないし、陽介とて菜々子は可愛い。やっと『ジュネスのお兄ちゃん』から『陽介お兄ちゃん』に昇格したばかりだ。素気無くなんてできるはずもない。
かと言ってこんな何もかもが筒抜けな田舎町でラブホと言うわけにも行かず、友達よりは気持ち濃いスキンシップで今までやり過ごしてきたのだ。
身体の関係があれば不安に思うことが無い……訳ではないだろうが、少なくとも今よりましな精神状態だったろう。

「ま、そんなわけだから、花村確認よろしく」
「…………」

そんなの知りたくないが聞いてしまった以上気になって仕方がない。けれどそこであっさり彼女の存在を肯定されでもしたら、陽介はマジで立ち上がれなくなる。どうにもこうにも出口が無い。

「花村? 聞いてるー?」
「うるせぇな。わーったっての!」

こうなったらヤケだ! 自分の死に水は自分でとると、陽介は腹をくくることにした。


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