【花鳴】二十億光年の孤独 (オフラインサンプル)
10/27のSPARK8用新刊のサンプルです。
ゲームとアニメの良いとこどりは相変わらずで、P4GとP4Uは未プレイなので設定総スルーです。
で、2012年のお話。二人は高校三年生になってます。
*****
「ったく、もう春だってのに何なんだよこの寒さ!」
「息、白いな。これで雨でも降ったら夜更けには雪になるんじゃないか?」
三月。
明日には都会へ帰らなければいけない夜。
悠と陽介は並んで鮫川の河川敷をゆっくりと歩いていた。
陽はとうに落ち、辺りに人家も少ないこの辺りでは、等間隔で設置されている街灯が僅かに足元を照らすだけ。
けれど空には満天の星。
「この空じゃ雪は降らねぇって」
「そうだな」
「でも、降ったら帰るの延期になったりして」
「どうだろ。電車が止まるほどの雪なんて、そうは降らないんじゃないか?」
「それもそっか。ちぇー、残念」
堂島家で開催された送別会の後、みんなを送るために悠も外へと出てきたが、ひとり、またひとりと別れ、二人きりになってかれこれ一時間。すんなり家に帰ることもできるが、それがどうにも惜しくて仕方ない。
「せめて春休みが終わる頃までいられねぇの?」
「んー、無理……かな。色々手続きもあるし。ここに来る時は叔父さんが全部やってくれたから、楽だったけど」
日本に戻ってくるのは間違いないが、昼間に学校へ足を運べるような両親でもない。となれば手続きはすべて悠が自分でやるしかない。
「そう言えばお前がここに来たのって、始業式の前日とかって言ってたよな。しかも転校初日に天城と帰るとか荒技やってのけたんだよ」
「里中だっていたし、荒技ってことないだろ」
「あるって! 天城越え、知らないわけじゃないだろ? あれで結構ヤローを敵に回してたんだぜ?」
「そう、なのか? 陽介も?」
「俺?! 俺は別に――」
来て早々、とんでもない事件に巻き込まれものすごく大変だったが、陽介が最初の一歩を踏み出し、自分の背中を押してくれた。そして今日まで隣をずっと一緒に走ってくくれたから、今の自分がある。
「なあ、陽介」
「ホントに俺は別に――」
刺激的で楽しい一年だったと笑顔で言える。
「――ありがとう」
「っ! 何だよ急に」
『生まれて、生きてたら、気づかないうちにもう誰かの特別になってるんだと思うんだ』
雪の舞うここ鮫川で陽介が言った言葉が胸に深く刻まれている。
陽介の事を『特別』だと思う。
でも、その想いは言葉にしてはいけないものだと、悠は直感的に思っていた。
(絆は確かにここにある)
毎日会えなくなったって、揺るがない絆が。
今はそれだけで充分。
「何となく、言っておきたかったんだ。それだけ」
足を止めて。
星明かりの中陽介の顔を見つめる。
自分はちゃんと笑えているだろうか。冷えて頬の筋肉が思うように動かない。
「――俺の方こそ」
反して、陽介が
「サンキュな、悠」
いとも容易く頬笑みを返してくる。
それが眩しくて、つい白い息を吐きながら空を見上げると
「――っしゅん!」
悠はひとつくしゃみをした。
*
そこそこ覚悟を決めて都会に帰ってきたつもりだったが――何せあの後更にとんでもない敵が現れるに至り、もう一仕事することになってしまったし――いざ、生活が始まってしまうと、悠は寂しくて仕方なくなった。
八十稲羽で培ったはずのコミュ力は、都会に戻ってきたとたん、まるで初めからなかったかのように元の木阿弥と化し、あっという間に一人ぼっち。
と言うか、悠自身がここでの絆の必要性を感じる事が出来なかった。
一年から二年に進級したと同時にあったらしいクラス替えのせいで、クラスの半数以上は知らない顔。この一年ですっかり出来上がってる友人関係に入っていくのは骨が折れる。
(同じ事を、あっちでもやったはずなのにな)
あの時はさして辛くも感じなかった事が、今度はものすごくたるい。どうせ学校なんて勉強するだけのところだと言う投げやりな気持ちが消えてくれない。
そう言う雰囲気は言わずとも伝わるもので。一年の時に同じクラスだったやつがかろうじて話しかけてきた四月を過ぎると、転校生――出戻りではあるが――に対する興味は徐々に失せ、ゴールデンウィークが始まろうと言う頃には、クラスの中での存在感は皆無に近くなっていた。今や『鳴上悠』に注目が集まるのは定期テストの結果の時ぐらいか。
『え、じゃあゴールデンウィークこっちにこれねぇの?』
「ああ、何か親が張り切っちゃってさ」
そんな現状のせいか、陽介がかけてくる電話が悠の心の支えになっていた。
メールだってもちろん来る。が、やはり声が聞けるのはとても嬉しい。しかも内容は懐かしい八十稲羽の事ばかり。
(こう言うのもホームシックって言うんだろうか)
まだこっちに戻ってきてからほんの一カ月程度だと言うのに、もう帰りたくて仕方がないなんて。
『そっかぁ。菜々子ちゃん寂しがるな』
「……、やっぱり楽しみにしてたよな、菜々子」
『そりゃそうだろ。会うたびにお兄ちゃんの話してるぜ?』
帰りたかった。八十稲羽に。
でも一年ぶりに帰国した両親は、離れている間に成長した息子が嬉しくて仕方ないらしく、このゴールデンウィークは家族旅行に行くと言ってきかない。
(今まで一度も行ったことないくせに)
両親の約束なんて、子供の頃から守られた試しなどない。きっとこの旅行だって流れてしまうのだろう。そう両親にも言ったのだけれど、今度は大丈夫と言って全く譲らないので、さすがの悠も諦めた。
(ゴメン、菜々子)
守られない約束がどんなに悔しくて空しいことか悠は身を持って知っているだけに、菜々子との約束を反故にしてしまうのが心苦しい。
「菜々子にはちゃんと電話であやまっておくよ」
夏こそは絶対帰ろう。
菜々子に、みんなに会いに。
そして――陽介に会いに。
ゲームとアニメの良いとこどりは相変わらずで、P4GとP4Uは未プレイなので設定総スルーです。
で、2012年のお話。二人は高校三年生になってます。
*****
「ったく、もう春だってのに何なんだよこの寒さ!」
「息、白いな。これで雨でも降ったら夜更けには雪になるんじゃないか?」
三月。
明日には都会へ帰らなければいけない夜。
悠と陽介は並んで鮫川の河川敷をゆっくりと歩いていた。
陽はとうに落ち、辺りに人家も少ないこの辺りでは、等間隔で設置されている街灯が僅かに足元を照らすだけ。
けれど空には満天の星。
「この空じゃ雪は降らねぇって」
「そうだな」
「でも、降ったら帰るの延期になったりして」
「どうだろ。電車が止まるほどの雪なんて、そうは降らないんじゃないか?」
「それもそっか。ちぇー、残念」
堂島家で開催された送別会の後、みんなを送るために悠も外へと出てきたが、ひとり、またひとりと別れ、二人きりになってかれこれ一時間。すんなり家に帰ることもできるが、それがどうにも惜しくて仕方ない。
「せめて春休みが終わる頃までいられねぇの?」
「んー、無理……かな。色々手続きもあるし。ここに来る時は叔父さんが全部やってくれたから、楽だったけど」
日本に戻ってくるのは間違いないが、昼間に学校へ足を運べるような両親でもない。となれば手続きはすべて悠が自分でやるしかない。
「そう言えばお前がここに来たのって、始業式の前日とかって言ってたよな。しかも転校初日に天城と帰るとか荒技やってのけたんだよ」
「里中だっていたし、荒技ってことないだろ」
「あるって! 天城越え、知らないわけじゃないだろ? あれで結構ヤローを敵に回してたんだぜ?」
「そう、なのか? 陽介も?」
「俺?! 俺は別に――」
来て早々、とんでもない事件に巻き込まれものすごく大変だったが、陽介が最初の一歩を踏み出し、自分の背中を押してくれた。そして今日まで隣をずっと一緒に走ってくくれたから、今の自分がある。
「なあ、陽介」
「ホントに俺は別に――」
刺激的で楽しい一年だったと笑顔で言える。
「――ありがとう」
「っ! 何だよ急に」
『生まれて、生きてたら、気づかないうちにもう誰かの特別になってるんだと思うんだ』
雪の舞うここ鮫川で陽介が言った言葉が胸に深く刻まれている。
陽介の事を『特別』だと思う。
でも、その想いは言葉にしてはいけないものだと、悠は直感的に思っていた。
(絆は確かにここにある)
毎日会えなくなったって、揺るがない絆が。
今はそれだけで充分。
「何となく、言っておきたかったんだ。それだけ」
足を止めて。
星明かりの中陽介の顔を見つめる。
自分はちゃんと笑えているだろうか。冷えて頬の筋肉が思うように動かない。
「――俺の方こそ」
反して、陽介が
「サンキュな、悠」
いとも容易く頬笑みを返してくる。
それが眩しくて、つい白い息を吐きながら空を見上げると
「――っしゅん!」
悠はひとつくしゃみをした。
*
そこそこ覚悟を決めて都会に帰ってきたつもりだったが――何せあの後更にとんでもない敵が現れるに至り、もう一仕事することになってしまったし――いざ、生活が始まってしまうと、悠は寂しくて仕方なくなった。
八十稲羽で培ったはずのコミュ力は、都会に戻ってきたとたん、まるで初めからなかったかのように元の木阿弥と化し、あっという間に一人ぼっち。
と言うか、悠自身がここでの絆の必要性を感じる事が出来なかった。
一年から二年に進級したと同時にあったらしいクラス替えのせいで、クラスの半数以上は知らない顔。この一年ですっかり出来上がってる友人関係に入っていくのは骨が折れる。
(同じ事を、あっちでもやったはずなのにな)
あの時はさして辛くも感じなかった事が、今度はものすごくたるい。どうせ学校なんて勉強するだけのところだと言う投げやりな気持ちが消えてくれない。
そう言う雰囲気は言わずとも伝わるもので。一年の時に同じクラスだったやつがかろうじて話しかけてきた四月を過ぎると、転校生――出戻りではあるが――に対する興味は徐々に失せ、ゴールデンウィークが始まろうと言う頃には、クラスの中での存在感は皆無に近くなっていた。今や『鳴上悠』に注目が集まるのは定期テストの結果の時ぐらいか。
『え、じゃあゴールデンウィークこっちにこれねぇの?』
「ああ、何か親が張り切っちゃってさ」
そんな現状のせいか、陽介がかけてくる電話が悠の心の支えになっていた。
メールだってもちろん来る。が、やはり声が聞けるのはとても嬉しい。しかも内容は懐かしい八十稲羽の事ばかり。
(こう言うのもホームシックって言うんだろうか)
まだこっちに戻ってきてからほんの一カ月程度だと言うのに、もう帰りたくて仕方がないなんて。
『そっかぁ。菜々子ちゃん寂しがるな』
「……、やっぱり楽しみにしてたよな、菜々子」
『そりゃそうだろ。会うたびにお兄ちゃんの話してるぜ?』
帰りたかった。八十稲羽に。
でも一年ぶりに帰国した両親は、離れている間に成長した息子が嬉しくて仕方ないらしく、このゴールデンウィークは家族旅行に行くと言ってきかない。
(今まで一度も行ったことないくせに)
両親の約束なんて、子供の頃から守られた試しなどない。きっとこの旅行だって流れてしまうのだろう。そう両親にも言ったのだけれど、今度は大丈夫と言って全く譲らないので、さすがの悠も諦めた。
(ゴメン、菜々子)
守られない約束がどんなに悔しくて空しいことか悠は身を持って知っているだけに、菜々子との約束を反故にしてしまうのが心苦しい。
「菜々子にはちゃんと電話であやまっておくよ」
夏こそは絶対帰ろう。
菜々子に、みんなに会いに。
そして――陽介に会いに。