【花鳴】Mr.Weakness (オフラインサンプル)
6月シティ合わせの新刊サンプルです。アニメとゲームの良いとこどりをした感じの花鳴です。ちょっと鳴上くんが可愛くなりすぎてる気がしなくもないですが……映画観た後だもん、しょうがないよね!!
*****
「俺、悠のこと好きみてぇ」
さっきまで他愛もないことを話していたのに、不意に訪れたわずかな沈黙をかき分け悠の耳に届いたのは、まるで自分の心を見透かしたかのような陽介のセリフだった。
悠の心にひっそりと根をおろした陽介に対する恋心は徐々に大きくなり、最近ではいつ外に飛び出しても仕方ないほど。それを必死に隠し、上手に『相棒』をしてきたつもりだったのに。
まさかこんなどんでん返しが潜んでいようとは。
「おれも、陽介のこと好きだぞ?」
けれど、『好き』にも色々ある。
家族としての『好き』、友達としての『好き』、恋人としての『好き』。
陽介のそれがどれに当てはまるかはわからない。いや、ぼそりと呟いたそれはほぼ間違いなく、悠と同じ『好き』だろう。
だが、それはあまりにも自分の希望的観測過ぎる気もして、悠はわざとそれとない返事をした。
「や、そーゆー意味じゃなくて」
「……うん」
知らず、小さく息をつく。
「大丈夫、同じ意味だよ」
「マジで?」
「マジで」
自信を持って、今度こそにっこりと陽介の顔をとらえた。
目の前で幸福の表情に変わっていくそれを見られるのが、こんなに嬉しいことだとは。
「っしゃーー!!」
ガッツポーズよろしく両こぶしを突き上げてから勢いよく腰に振り下ろす。わずかに陽介の目じりが濡れている気がするのは気のせいだろうか。
「な、触ってもいいか?」
ひとしきり全身で喜びを表した後、そっと距離を詰めてきた陽介が恐る恐る手を伸ばしてきた。その手をこちらからも迎えに行く。
「ああ」
触れた瞬間指先がしびれるような感覚。これが『相棒』と『恋人』の最たる差だ。
「やっべ、心臓口から出ちまいそう」
「馬鹿」
緊張から来る汗で掌は湿っていないだろうか。
指先が絡むように片手を繋ぎ、もう片方がゆっくりと悠の身体を引き寄せる。
「好きだぜ、悠」
身長差のせいでわずかに覗き込むようになる陽介の視線が、これから起こることを予感させた。
暑さに負けず屋上に出てきて良かったと、悠はそっと思う。真夏の日差しの真下、辺りに人影はない。
「おれも、好きだよ陽介」
男同士だとか、陽介にいた思い人のこととか、限られた時間とか、色々……本当に色々なことを悩んできたけれど。それも今報われた。
――そっと触れるだけのキス
でも確かに変化した二人の関係が嬉しくて、くすぐったかった。
*
夏休みに入って間もなく事件は収束を見せ、やっとゆっくりと二人きりの時間がとれるようになって、陽介はワクワクしていた。
玉砕覚悟で――振られても夏休みの間に何とか立ち直れると踏んで――した告白が、予想外に上手くいき『相棒』から『恋人』へと昇格を果たしたものの、なんだかんだでほとんど恋人らしいことなど何もできずに数日。それがやっと二人きりで過ごすことができる。
「――って思ってたのによぉ」
「ん? なんか言ったか?」
「いーや、なんも」
八月初旬の堂島家、悠の個室。
二人きりで向き合うテーブルの上には、口実で持参した宿題が二人分広がっていた。そう、口実だ。本当の目的は人目も気にせず思い切りいちゃいちゃすることだったのだが。
(さすがに菜々子ちゃんのいる家の中でってわけにはいかねぇって)
ぬかった。自分たち高校生が夏休みということは、当然のことながら小学生である菜々子だってそうだ。堂島のことばかり気にしていた陽介は、自分の馬鹿さ加減にため息が出る。
「何でもないことあるか。さっきからため息ばっかりついてて、全然進んでないだろ」
「んー……」
ノートに突っ伏した視線の先には、陽介のそれとは正反対に、どんどん埋まっていくノートを抑えている悠の指。それにそっと手を伸ばすと、人差し指から持ち上げて自分の右手と絡ませる。
「陽介」
「いいじゃん、これくれぇ」
本当は抱きしめてキスをして、全身で悠は自分の恋人だと感じたいと思っているのに。
「だめだって」
「なんで」
それすら許してくれない悠は、本当に自分のことが好きなのだろうかと不安になる。
「これくらいじゃ済まなくなるだろ」
ぼそりと呟かれ驚いて顔を上げると、目の前には瞼を伏せほんのり紅潮した表情の恋人。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
そんな顔をされたらもう、本当にどうにかしてやりたくなり、でも階下の菜々子の手前そんなわけにもいかず、陽介は必死に頭を掻き毟った。
「もう、お前なんでそんなに可愛いわけ?」
「うるさい、男相手に可愛いなんて言うな」
「しょうがねぇじゃん、可愛いものは可愛いの。もう俺メロメロよ?」
どこまで自分を虜にすれば気が済むのかと、恨めしいやら嬉しいやら。いや、もう断然嬉しくて天にも昇る心持ちだ。
「勝手に言ってろ。宿題終わらなくったって知らないからな」
口実ではあるが、これからの夏休みを有意義に過ごすための第一歩として早々に片づけてしまいたいのも本当のところ。
「やるやるやるって、もう気合十分だから! 俺やればできるコだから!」
「そうか、じゃあがんばれ」
さっきとは打って変わってやる気を漲らせた陽介を見て、くすりと笑う悠の笑顔にクラクラする。
「でもその前に」
吸い寄せられるように悠との距離を詰めて、その薄い唇に自分のそれを――。
「おにいちゃーん! お父さんがアイスかってきてくれたー!」
声と同時に菜々子が階段を駆け上がってくる音がして、二人は慌てて居住まいを正した、が。
「どうしたの?」
部屋の中の何とも言えない空気を勘の良い菜々子は察知してしまったのだろう、不思議そうに二人の顔を見つめる。
「なんでもないよ、叔父さん帰ってきたんだ?」
ほとんど硬直に近い状態で座る陽介をそのままに、悠が何とか立ち上がって菜々子の方へと歩み寄った。
「うん、でももう行っちゃった。きがえとりに来ただけだって」
「そっか」
菜々子の手には少し汗をかき始めたビニール袋が下がっていて。
「よーすけお兄ちゃんのぶんもちゃんとあるよ」
悠の陰からこちらを覗き込むように菜々子が様子を窺ってくる。これは固まっている場合じゃないなと、陽介は再び小さく息を吐いた。
「らっきぃ、ちょうどアイス食いてぇ気分だったんだ俺。サンキュー菜々子ちゃん」
「かってきたの、お父さんだよ」
「そっか、んじゃ菜々子ちゃんからお礼言っといてくれる?」
「うん!」
個人的な欲望で、菜々子を寂しい気分にさせるのは陽介とて本位ではない。
「せっかくだし、みんなで下で食べようか」
ちょうどやる気が出てきたところでの中断は些か不安ではあるが、もやもやした気分を吹き飛ばすためにも、ここは悠の提案に乗っかった方がいいだろう。
「だな」
「だな!」
陽介の真似をして元気よく返事を返す菜々子は実に可愛らしく、悠のみならず兄弟のいない陽介にとっても可愛い妹のようなものだ。軽く跳ねるようにして階段を下りる菜々子の後ろ姿に、知らず笑みがこぼれる。
「っと、あぶね」
「鼻の下、のびてる」
一足先に階段を下りていた悠が足を止め、陽介を振り返った。危うく追突しそうになり慌てて踏みとどまった陽介を覗き込む視線。
「のびてねぇだろ。つか、妬いてんのか?」
「……別に」
駄目だ、顔のにやけが止まらない。今日の悠は一体どうしたんだってくらい陽介を嬉しがらせてくれる。
「その顔、キモイ」
「! 酷ぇ!」
かと思えば突き落とし、本当に一筋縄ではいかない恋人だ。
でも、そんなところも可愛くて仕方ないとか思ってるのだから、自己申告通り本当に悠にメロメロな陽介だった。
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「俺、悠のこと好きみてぇ」
さっきまで他愛もないことを話していたのに、不意に訪れたわずかな沈黙をかき分け悠の耳に届いたのは、まるで自分の心を見透かしたかのような陽介のセリフだった。
悠の心にひっそりと根をおろした陽介に対する恋心は徐々に大きくなり、最近ではいつ外に飛び出しても仕方ないほど。それを必死に隠し、上手に『相棒』をしてきたつもりだったのに。
まさかこんなどんでん返しが潜んでいようとは。
「おれも、陽介のこと好きだぞ?」
けれど、『好き』にも色々ある。
家族としての『好き』、友達としての『好き』、恋人としての『好き』。
陽介のそれがどれに当てはまるかはわからない。いや、ぼそりと呟いたそれはほぼ間違いなく、悠と同じ『好き』だろう。
だが、それはあまりにも自分の希望的観測過ぎる気もして、悠はわざとそれとない返事をした。
「や、そーゆー意味じゃなくて」
「……うん」
知らず、小さく息をつく。
「大丈夫、同じ意味だよ」
「マジで?」
「マジで」
自信を持って、今度こそにっこりと陽介の顔をとらえた。
目の前で幸福の表情に変わっていくそれを見られるのが、こんなに嬉しいことだとは。
「っしゃーー!!」
ガッツポーズよろしく両こぶしを突き上げてから勢いよく腰に振り下ろす。わずかに陽介の目じりが濡れている気がするのは気のせいだろうか。
「な、触ってもいいか?」
ひとしきり全身で喜びを表した後、そっと距離を詰めてきた陽介が恐る恐る手を伸ばしてきた。その手をこちらからも迎えに行く。
「ああ」
触れた瞬間指先がしびれるような感覚。これが『相棒』と『恋人』の最たる差だ。
「やっべ、心臓口から出ちまいそう」
「馬鹿」
緊張から来る汗で掌は湿っていないだろうか。
指先が絡むように片手を繋ぎ、もう片方がゆっくりと悠の身体を引き寄せる。
「好きだぜ、悠」
身長差のせいでわずかに覗き込むようになる陽介の視線が、これから起こることを予感させた。
暑さに負けず屋上に出てきて良かったと、悠はそっと思う。真夏の日差しの真下、辺りに人影はない。
「おれも、好きだよ陽介」
男同士だとか、陽介にいた思い人のこととか、限られた時間とか、色々……本当に色々なことを悩んできたけれど。それも今報われた。
――そっと触れるだけのキス
でも確かに変化した二人の関係が嬉しくて、くすぐったかった。
*
夏休みに入って間もなく事件は収束を見せ、やっとゆっくりと二人きりの時間がとれるようになって、陽介はワクワクしていた。
玉砕覚悟で――振られても夏休みの間に何とか立ち直れると踏んで――した告白が、予想外に上手くいき『相棒』から『恋人』へと昇格を果たしたものの、なんだかんだでほとんど恋人らしいことなど何もできずに数日。それがやっと二人きりで過ごすことができる。
「――って思ってたのによぉ」
「ん? なんか言ったか?」
「いーや、なんも」
八月初旬の堂島家、悠の個室。
二人きりで向き合うテーブルの上には、口実で持参した宿題が二人分広がっていた。そう、口実だ。本当の目的は人目も気にせず思い切りいちゃいちゃすることだったのだが。
(さすがに菜々子ちゃんのいる家の中でってわけにはいかねぇって)
ぬかった。自分たち高校生が夏休みということは、当然のことながら小学生である菜々子だってそうだ。堂島のことばかり気にしていた陽介は、自分の馬鹿さ加減にため息が出る。
「何でもないことあるか。さっきからため息ばっかりついてて、全然進んでないだろ」
「んー……」
ノートに突っ伏した視線の先には、陽介のそれとは正反対に、どんどん埋まっていくノートを抑えている悠の指。それにそっと手を伸ばすと、人差し指から持ち上げて自分の右手と絡ませる。
「陽介」
「いいじゃん、これくれぇ」
本当は抱きしめてキスをして、全身で悠は自分の恋人だと感じたいと思っているのに。
「だめだって」
「なんで」
それすら許してくれない悠は、本当に自分のことが好きなのだろうかと不安になる。
「これくらいじゃ済まなくなるだろ」
ぼそりと呟かれ驚いて顔を上げると、目の前には瞼を伏せほんのり紅潮した表情の恋人。
「〜〜〜〜〜〜〜〜っ!」
そんな顔をされたらもう、本当にどうにかしてやりたくなり、でも階下の菜々子の手前そんなわけにもいかず、陽介は必死に頭を掻き毟った。
「もう、お前なんでそんなに可愛いわけ?」
「うるさい、男相手に可愛いなんて言うな」
「しょうがねぇじゃん、可愛いものは可愛いの。もう俺メロメロよ?」
どこまで自分を虜にすれば気が済むのかと、恨めしいやら嬉しいやら。いや、もう断然嬉しくて天にも昇る心持ちだ。
「勝手に言ってろ。宿題終わらなくったって知らないからな」
口実ではあるが、これからの夏休みを有意義に過ごすための第一歩として早々に片づけてしまいたいのも本当のところ。
「やるやるやるって、もう気合十分だから! 俺やればできるコだから!」
「そうか、じゃあがんばれ」
さっきとは打って変わってやる気を漲らせた陽介を見て、くすりと笑う悠の笑顔にクラクラする。
「でもその前に」
吸い寄せられるように悠との距離を詰めて、その薄い唇に自分のそれを――。
「おにいちゃーん! お父さんがアイスかってきてくれたー!」
声と同時に菜々子が階段を駆け上がってくる音がして、二人は慌てて居住まいを正した、が。
「どうしたの?」
部屋の中の何とも言えない空気を勘の良い菜々子は察知してしまったのだろう、不思議そうに二人の顔を見つめる。
「なんでもないよ、叔父さん帰ってきたんだ?」
ほとんど硬直に近い状態で座る陽介をそのままに、悠が何とか立ち上がって菜々子の方へと歩み寄った。
「うん、でももう行っちゃった。きがえとりに来ただけだって」
「そっか」
菜々子の手には少し汗をかき始めたビニール袋が下がっていて。
「よーすけお兄ちゃんのぶんもちゃんとあるよ」
悠の陰からこちらを覗き込むように菜々子が様子を窺ってくる。これは固まっている場合じゃないなと、陽介は再び小さく息を吐いた。
「らっきぃ、ちょうどアイス食いてぇ気分だったんだ俺。サンキュー菜々子ちゃん」
「かってきたの、お父さんだよ」
「そっか、んじゃ菜々子ちゃんからお礼言っといてくれる?」
「うん!」
個人的な欲望で、菜々子を寂しい気分にさせるのは陽介とて本位ではない。
「せっかくだし、みんなで下で食べようか」
ちょうどやる気が出てきたところでの中断は些か不安ではあるが、もやもやした気分を吹き飛ばすためにも、ここは悠の提案に乗っかった方がいいだろう。
「だな」
「だな!」
陽介の真似をして元気よく返事を返す菜々子は実に可愛らしく、悠のみならず兄弟のいない陽介にとっても可愛い妹のようなものだ。軽く跳ねるようにして階段を下りる菜々子の後ろ姿に、知らず笑みがこぼれる。
「っと、あぶね」
「鼻の下、のびてる」
一足先に階段を下りていた悠が足を止め、陽介を振り返った。危うく追突しそうになり慌てて踏みとどまった陽介を覗き込む視線。
「のびてねぇだろ。つか、妬いてんのか?」
「……別に」
駄目だ、顔のにやけが止まらない。今日の悠は一体どうしたんだってくらい陽介を嬉しがらせてくれる。
「その顔、キモイ」
「! 酷ぇ!」
かと思えば突き落とし、本当に一筋縄ではいかない恋人だ。
でも、そんなところも可愛くて仕方ないとか思ってるのだから、自己申告通り本当に悠にメロメロな陽介だった。