【花鳴】2012.6.22
花村陽介、18歳のお誕生日おめでとうーーーー!
ってことで、滑り込みセーフ的にお祝いSSです。
今年は幸せにしてあげられたと思う! 当社比!
生ぬるい目で、ひとつよろしくお願いします。ええ。
*****
6月に入ってからこっち、陽介はどうにも落ち着かない日々を送っていた。
期間が終わり、都会へと戻ってしまった恋人宛にあるものを送りつけたのだが、それに対する反応が一切ないのだ。
冗談半分、本気半分。
それはおそらく悠にも伝わっているだろう。
「だって、せっかく18になるんだし」
ノってくれないまでも、メールでの突っ込みぐらいあると思っていた。
なのに、あれからぼちぼち三週間。メールを出しても返事は来ないし、電話には全く出てくれない。
「もしかして俺、地雷踏んじまった……とか」
実際の距離が開きすぎて、心の距離まで開いてしまったのではと青くなる。が、もうやってしまったことなので後の祭だ。
しかし、こちらからの連絡にすら反応を示してくれないとなると、弁解のしようもないわけで。
「このまま……なんてことになったりして」
笑えない、全くもって笑えない。
背筋にはもうずっと冷たい汗が流れっぱなしだ。
いっそのこと、悠のところへ押しかけてしまおうか。今日は金曜日だし、帰ってこれなくなってもまあ、どうにかなるだろう。
幸いにも財布の中身はそこそこ裕福だ。これなら悠が怒っていて泊めてくれない事態でも、漫喫辺りで一晩くらい過ごせるはず。
「よしっ!」
そうと決まれば早速支度だ。手近にあった鞄に替えの下着と財布・携帯を突っ込み、電車の時間は駅に着いてから調べることにして部屋を飛び出す。
と、同時に、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「ったく、誰だよこんな時に!」
それでも自分も開ける必要がある扉なので、仕方なく開くとそこには。
「悠」
今まさに、陽介が会いに行こうとしてた悠が立っていた。
「どこか行くのか?」
「え、いや、別にこれは……」
驚いて固まる陽介とは正反対に、悠が落ち着いた声でたずねてくる。
「なら、あがるぞ」
「え、ちょっとおい悠!」
悠は陽介の脇をすり抜けて靴を脱ぐと、そのまま真っ直ぐ陽介の部屋へと歩き始めた。慌てて、それを追いかける。
いったい何がどうなってるのか。
たどり着いた部屋の真ん中に腰をおろした悠は、まだ戸口で混乱している陽介を手招いた。
「座れって」
「あ、ああ」
言われるままに向い合せに膝を折る。思わず正座になってしまうのは、やはり悠が怒ってるのではないかという気がしてならないからだ。
たった少しの沈黙がとにかく痛い。いったい何がこれから起こるのかが怖くて仕方ない。
「陽介」
「は、はいぃ!」
思わず背筋が伸びてしまい、陽介の緊張は悠にだだ漏れた。
「誕生日、おめでとう」
「――――――へ」
一瞬、何を言われているのかさっぱり分からず、気の抜けた返事を気の抜けた顔で返してしまう。
「なんだよ」
「や、あの。悠は怒ってんじゃないかなーと思ってたから。一発殴らねぇと気が済まない……とか」
「なんで」
なんでと言われても。だったらこの三週間の音沙汰なしっぷりは一体何だったというのか。
「いやほら、俺お前に送ったじゃん、アレ」
「ああ、これ?」
言われて悠が鞄から封筒を取り出した。そこには悠の名前と住所が書いてある。確かに陽介が送った手紙だ。
「そうそれ。冗談過ぎるって怒っちまったのかと思って、俺……」
「冗談だったのか?」
そう言われると、返事に困る。だって『冗談半分、本気半分。でも本当は丸々本気』だったから。
「冗談……じゃねぇけど。本当にどうこうできるもんでもねぇし」
「まあ、そりゃそうか」
悠の指が封筒の中身をゆっくりと引きだす。
「出すことはできねぇけど、気持ちだけはそのつもりっつか。形が欲しかったんだよ! わりぃか!」
目の前で広げられる薄手の紙を直視できず、逆ギレた。
「悪くないって。だからこうして持ってきただろ」
「え」
恐る恐る視線を戻すとそこには。
「マジで!?」
緊張して震えた自分の字の隣に、およそ高校生とは思えないほど綺麗な悠の字が並んでいた。
「本当は証人が二人要るんだけど、本当に出すわけじゃないからいいよな」
もちろんだ、出せるわけがない。だってこれは『婚姻届』なのだから。
「いい、そんなもんどーでもいい! お前が名前書いてくれただけで、俺!」
しかも、わざわざこうして持ってきてくれた。会いに来てくれた。
「悠――!」
「うっわ! 馬鹿! せっかく書いたのに破れるだろ!」
そう言われても止まるはずがない。飛びつかん勢いで抱きしめた悠は陽介を支えきれずにそのまま床へと倒れこむ。
「絶対幸せにする!」
「ああ、頼んだ」
まだしばらくは簡単に会えない距離にじれる日々が続くのは間違いない。が、それすら楽しめる気がするから不思議だ。
くすりと笑いあい、ゆっくりとキスをする。誓いのキスにはあまりにも不格好だが幸せだから構わない。
「あ、これコピーしてお前も持っとく?」
「実はもう一枚持ってきた」
そう言って差し出された婚姻届には悠の名前だけが書かれている。
「さすが相棒!」
「書き間違うなよ?」
「任しとけって」
2012年6月22日は、こうして二人の入籍記念日(?)となったのだった。
ってことで、滑り込みセーフ的にお祝いSSです。
今年は幸せにしてあげられたと思う! 当社比!
生ぬるい目で、ひとつよろしくお願いします。ええ。
*****
6月に入ってからこっち、陽介はどうにも落ち着かない日々を送っていた。
期間が終わり、都会へと戻ってしまった恋人宛にあるものを送りつけたのだが、それに対する反応が一切ないのだ。
冗談半分、本気半分。
それはおそらく悠にも伝わっているだろう。
「だって、せっかく18になるんだし」
ノってくれないまでも、メールでの突っ込みぐらいあると思っていた。
なのに、あれからぼちぼち三週間。メールを出しても返事は来ないし、電話には全く出てくれない。
「もしかして俺、地雷踏んじまった……とか」
実際の距離が開きすぎて、心の距離まで開いてしまったのではと青くなる。が、もうやってしまったことなので後の祭だ。
しかし、こちらからの連絡にすら反応を示してくれないとなると、弁解のしようもないわけで。
「このまま……なんてことになったりして」
笑えない、全くもって笑えない。
背筋にはもうずっと冷たい汗が流れっぱなしだ。
いっそのこと、悠のところへ押しかけてしまおうか。今日は金曜日だし、帰ってこれなくなってもまあ、どうにかなるだろう。
幸いにも財布の中身はそこそこ裕福だ。これなら悠が怒っていて泊めてくれない事態でも、漫喫辺りで一晩くらい過ごせるはず。
「よしっ!」
そうと決まれば早速支度だ。手近にあった鞄に替えの下着と財布・携帯を突っ込み、電車の時間は駅に着いてから調べることにして部屋を飛び出す。
と、同時に、玄関のチャイムが鳴り響いた。
「ったく、誰だよこんな時に!」
それでも自分も開ける必要がある扉なので、仕方なく開くとそこには。
「悠」
今まさに、陽介が会いに行こうとしてた悠が立っていた。
「どこか行くのか?」
「え、いや、別にこれは……」
驚いて固まる陽介とは正反対に、悠が落ち着いた声でたずねてくる。
「なら、あがるぞ」
「え、ちょっとおい悠!」
悠は陽介の脇をすり抜けて靴を脱ぐと、そのまま真っ直ぐ陽介の部屋へと歩き始めた。慌てて、それを追いかける。
いったい何がどうなってるのか。
たどり着いた部屋の真ん中に腰をおろした悠は、まだ戸口で混乱している陽介を手招いた。
「座れって」
「あ、ああ」
言われるままに向い合せに膝を折る。思わず正座になってしまうのは、やはり悠が怒ってるのではないかという気がしてならないからだ。
たった少しの沈黙がとにかく痛い。いったい何がこれから起こるのかが怖くて仕方ない。
「陽介」
「は、はいぃ!」
思わず背筋が伸びてしまい、陽介の緊張は悠にだだ漏れた。
「誕生日、おめでとう」
「――――――へ」
一瞬、何を言われているのかさっぱり分からず、気の抜けた返事を気の抜けた顔で返してしまう。
「なんだよ」
「や、あの。悠は怒ってんじゃないかなーと思ってたから。一発殴らねぇと気が済まない……とか」
「なんで」
なんでと言われても。だったらこの三週間の音沙汰なしっぷりは一体何だったというのか。
「いやほら、俺お前に送ったじゃん、アレ」
「ああ、これ?」
言われて悠が鞄から封筒を取り出した。そこには悠の名前と住所が書いてある。確かに陽介が送った手紙だ。
「そうそれ。冗談過ぎるって怒っちまったのかと思って、俺……」
「冗談だったのか?」
そう言われると、返事に困る。だって『冗談半分、本気半分。でも本当は丸々本気』だったから。
「冗談……じゃねぇけど。本当にどうこうできるもんでもねぇし」
「まあ、そりゃそうか」
悠の指が封筒の中身をゆっくりと引きだす。
「出すことはできねぇけど、気持ちだけはそのつもりっつか。形が欲しかったんだよ! わりぃか!」
目の前で広げられる薄手の紙を直視できず、逆ギレた。
「悪くないって。だからこうして持ってきただろ」
「え」
恐る恐る視線を戻すとそこには。
「マジで!?」
緊張して震えた自分の字の隣に、およそ高校生とは思えないほど綺麗な悠の字が並んでいた。
「本当は証人が二人要るんだけど、本当に出すわけじゃないからいいよな」
もちろんだ、出せるわけがない。だってこれは『婚姻届』なのだから。
「いい、そんなもんどーでもいい! お前が名前書いてくれただけで、俺!」
しかも、わざわざこうして持ってきてくれた。会いに来てくれた。
「悠――!」
「うっわ! 馬鹿! せっかく書いたのに破れるだろ!」
そう言われても止まるはずがない。飛びつかん勢いで抱きしめた悠は陽介を支えきれずにそのまま床へと倒れこむ。
「絶対幸せにする!」
「ああ、頼んだ」
まだしばらくは簡単に会えない距離にじれる日々が続くのは間違いない。が、それすら楽しめる気がするから不思議だ。
くすりと笑いあい、ゆっくりとキスをする。誓いのキスにはあまりにも不格好だが幸せだから構わない。
「あ、これコピーしてお前も持っとく?」
「実はもう一枚持ってきた」
そう言って差し出された婚姻届には悠の名前だけが書かれている。
「さすが相棒!」
「書き間違うなよ?」
「任しとけって」
2012年6月22日は、こうして二人の入籍記念日(?)となったのだった。