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 【花主】はなたんたん

6/26はなぷち! のチラシラリーに参加させていただきました。
その時載せたSSです。

前に書いたお誕生日SSはなたんの続きな感じです。

花村さんは泣いてますが、実はそんなに悲観するものでもないかもよ?
と言う心持ちなのですが、私の気分次第と言う話もww

<<はなたん



*****


「髪の毛洗って貰うってのは?」

不幸中の幸いで数日前に孝介からゲットした『何でもしてやる券』。これをいかに有効に使うかが目下陽介の一番の悩みだった。
危うく貰った次の日にたわいない事に使ってしまいそうになったのは御愛嬌だが、どうせ何かひとつ孝介にお願いを聞いて貰えるなら、絶対やって貰えないことがいい。
とは言え、法に触れる事はご法度だ。勿論、そんなことに使う気はもとより更々ない。

今まで出た候補は、どれも他愛のないことばかりで、自分はこんなに欲のない人間だったかと驚くほどだ。

「どうしても御奉仕系から抜け出せないのな。なんかおれに恨みでもあるわけ?」
「いやー、そう言うわけじゃねぇけど、なんとなくお前を傅かせることができたら気分いいだろなーと」

逆に物凄いことでうっかりOKが出てしまったりすると、今度は孝介の誕生日が恐ろしい。それに見合うプレゼントを用意しなければ絶対に許してくれないだろう。その辺りの力加減が微妙すぎて、ドカンといけないのもお願いが決まらない理由のひとつだったりする。

「もういっそ、一日メイドとか? いや、この場合執事? 召使? とか?」
「え、それじゃあ最初の『回数増やさない』って言う約束に抵触すんじゃね?」

何度も何度もお願いされても困ると孝介が一番最初に設けた決まり事だ。それを自ら破るような提案してくるなんて陽介は驚いた。

「だってしょうがないだろ、このまんまじゃいつまで経っても決まらないじゃないか。それに、何を恐れているんだかしらないけど、思い切ったお願いはできないみたいだし? だったらこのくらいで丁度良いんじゃないか?」

余りにも御尤もな意見に、ぐうの音も出ない。きっとさっきまで上げた髪の毛洗って貰うとか、弁当作って貰うとか、肩揉んでもらうとか、背中流して貰うとか、そういうの一切合財やっても孝介にしたらたいしたことないのだろう。

「じゃあ、そう言うことでお願いすっかなー」
「了解しました。ご主人様」
「うお、ちょ、もうかよ!」

心の準備もできてないのに、いきなり言葉遣いを変えられて陽介が慌てふためく。

「どうかなさいましたか、ご主人様。何なりと申し付けください」

執事然とした態度で言われると、確かにちょっと気分も良い。

「じゃあ、まず、肩揉んでもらおっかな」
「かしこまりましたご主人様」

言うが早いか孝介はくるりと陽介の後ろに回ると、その肩からヘッドフォンを引き抜いた。いつもそんなものを下げているから、自然と陽介の方は凝り気味だ。だから最初のお願いで肩もみとか言い出したわけだが。

「う、わ。ちょまって、なんでこれ、おい! いたたたたたたた!!!」
「はい、なんでしょう」
「なんでしょうじゃないって、痛すぎる! もっとそっとやってくれよ」

触っただけに感じた孝介の指がもたらす刺激に陽介は悲鳴を上げた。

「全く、我侭なご主人様ですね。そんな強く揉んでないぞ?」
「そんな事言ってもいてーもんはいてーの!」
「はいはい、わかりました」

言われて今度は撫でる様に指を滑らせてくる。それはそれで痛いと言うより。

「く、くはははは、だめ、それは!」

ただひたすらくすぐったかった。

「あーもう、肩揉み止め!」
「かしこまりました。では次はどういたしましょう」

時間は余りない。今日券を使うと決めてからああだこうだと悩んでいたせいで、時刻は既に夜の七時を回ってしまっているのだから。後少ししたら陽介も自宅へ帰らなくてはならない。

「じゃあ飯……はさっき食わして貰ったし」
「そうだな、夕飯しっかり食べたもんな」

学校から堂島家へ直行し、そのまま今の時間までいれば当然途中に夕飯と言う事になる。菜々子を交えた夕食はとても楽しく、そして美味しかった。たとえメニューが豆腐のグラタンであっても。

「ったく、うちのお袋の話なんかすんじゃなかったぜ」
「でもそのおかげでおれは豆腐を無駄にしないで済んだし、お前はこうしてご主人様ができるんだから良いじゃないか」
「ま、それはそうなんだけどよ」

食事も駄目となると後は

「背中流すとか髪の毛洗うとか?」
「シャワー、浴びちまったな」

この梅雨の真っ只中、学校から帰った姿のままでいつまでもいられる訳もなく。帰って早々シャワーをしっかり借りてしまった。

「実は花村、この券使う気ないとか?」
「んな訳あるかよ」

せっかく孝介に何でもお願いできるチャンスを棒に振るとか、絶対にありえない。でも、じゃあ、いったいなんに使えば……。

「あ」
「なんか思いついた?」

ひとつ、ずっとしたいと思ってた事があった。でもこれは諸刃の剣でもある。何せ、孝介の仕返しがどう言う風に出てくるか全く予想がつかないからだ。上手くいけば二度美味しいし、失敗すればどんな事を要求されるかわかったもんじゃない。

「どんな御用件でしょうか、ご主人様?」

恐らく今日はなかったことにして日を改めたいと言っても駄目だろう。だとしたら、もう本当にこれぐらいしか残っていない。
一か八か。言うだけ言ってみても良いかも知れない。

「……ス」
「え。何聴こえない」

一つ、大きく深呼吸する。

「キス、させてくんね?」

一瞬、孝介の動きが止まった。流れる沈黙が重たい。

「あ、いやほら、ほっぺでもいいし! おでこに軽ーくとかでもぜんぜん」
「かしこまりました。ではどうぞ」

絶対拒否られると思ったとたん、孝介は静かに目を閉じた。

「い、良いのか?」
「どうぞ、頬でも額でも唇でも」

どうやらこれは、マジ、らしい。寸前で殴られたり……することもまあ無くは無いかもしれないが、でもこんな絶好のチャンス、逃す手はない。
ゴクリと、知らず喉が鳴る。鼻息も心なしか荒くなっている気もする。

「じゃ……じゃあ、いくぞ」

そうっと肩に手を置いてゆっくりと唇を寄せる。触れた瞬間ビビリと何かが陽介の背中を流れていった。

(やらけー)

同じ男の唇とは思えない孝介の唇を食べてしまいたい衝動に駆られるが、そこはなんとか踏みとどまり、唯一下唇を小さく食んだ。ピクリと孝介の肩が震えた気がしたが、もしかしたら自分自身が震えただけなのかもしれない。
どのくらいそうしていたか、玄関の開く音で二人は我に帰った。

「おーい、帰ったぞー!」
「あ、はい! おかえりなさい!!」

ヤバイ、ここが居間だと言うことをすっかり失念していた。慌てて離れるのと同時に堂島が居間へと顔を覗かせた。

「お、いらっしゃい」
「おおおおじゃましてます」

冷静にと思うほどどもる自分の口が恨めしい。けれど酒に酔っているらしい堂島はそんな事にも気付かずご機嫌だ。

「菜々子は寝たのか?」
「うん、さっき」

時計を見ればもう九時近くなっていた。いったい本当にどのくらいキスしてたのか。

「お、俺もう帰るわ」
「あ、ああ、気をつけてな」
「おお」

なんかもう孝介の顔を見ることもできやしない。これはやっぱりしくじったパターンかもしれないと陽介は心の中で涙を流した。