【花鳴】俺の相棒がこんなに可愛いわけがない。 (オフラインサンプル)
5/4のSCC22合わせの新刊サンプルです。
アニメの10月前半設定。でも中身はかなりゲーム(PS2版)よりです。
でも主人公の名前は【鳴上悠】で。
個人的には結構好きなお話になったので、良かったらお手にとってやってください!
*****
「いいか、俺が来るまで絶対ここから出るんじゃねぇぞ」
「……でも、陽介――」
陽介だってこんなところに悠を一人で置いていくなんて不安で仕方がない。けれど、二人一緒に居たからといってこの状況が好転するわけじゃないのなら『攻め』に出るのが得策だ。
となると、ここはやっぱり自分が動かなきゃだめだろう。
(そう、今コイツ――鳴上悠――を守れるのは俺だけ)
相棒たる陽介だけだ。
「わかったな」
語気を強くしてその瞳を覗き込む。不安げに揺れていた悠の眼が一瞬見開かれ、その後ゆっくりと瞬かれる。
「わかった。陽介に任せた」
「おう、任された!」
バチンと音がするくらい綺麗なウィンクを残して陽介は静かに扉を閉めた。同時に悠が内側からカギをかける。
「すぐ戻ってくっから! 待ってろよ!」
扉越しに言い置くと返事を待たずに駆け出していく。
「頼んだぞ、陽介」
そんな陽介の足音が遠ざかるのを聞きながら、残された悠はどうしたものかとため息をついた。
*
時間は十八時間ほど遡る。
明日からは連休だというその日の放課後、陽介があることを悠に持ちかけたのが事の発端だ。
「レベル上げ?」
「そ、レベル上げ」
夕暮れが迫る教室で、僅かに残っている他のクラスメイトに聞こえないよう、机を挟んで身を寄せ合う。
「ほら、直斗とこないだ話した時に、真犯人は別にいるって話になったじゃん」
「ああ」
確かに、この間ジュネスの屋上で情報を整理した時、久保が犯人である可能性は否定された。何しろ久保は直斗が攫われたその日その時には警察に拘留されていたのだから。
「てーことは、だ」
より一層声のトーンを落として陽介が耳打ちをしてくる。
「いつ次の被害者出ても不思議はねぇわけだよな」
「陽介……」
不謹慎極まりないセリフに悠はため息をついてからキツイ視線で陽介を見返した。
「いやいやいや、俺だってわかってるよ? そんな事にならないに越したことはねぇってことぐらい。でも現実問題犯人の目星は全く付いてねぇじゃん」
『久保ではない』事。
『単独犯である』事。
後はまあ『男である』事はわかったが、それ以外は全くと言っていいほどわからない。
そんな大雑把な犯人像から特定の誰かつきとめるなんて芸当、簡単にできるわけがない。
いかな優秀な警察だとしても。
自分たちが『犯人』に一番近い場所に居るのは間違いないが、その自分たちだってこれ以上の情報は皆無だ。
とすれば、陽介の言う通り『いつ次の被害者が出ても不思議はない』と言うことになる。
「防げるもんなら防ぎたいし、防ぐ努力もを惜しむつもりもないけどな」
テレビでフィーチャーされた稲羽市に住んでいる人間を中心にチェックし、マヨナカテレビもチェックする。そうすれば次の被害者に注意喚起することは不可能じゃないが、絶対とは言い難い。
だから――。
「強くなっておいて損はないと?」
いつまたテレビの中で戦う羽目になるかはわからない。だったら余暇を使って自分の戦闘能力を少しでも上げておきたいというのが陽介の提案だ。
「そゆこと。まあ今までもやってきた事だけどな」
いきなりテレビの中に入り込んで以来何となくやってきた事ではあるが、夏休み以降――久保が捕まってから――はバイトやら修学旅行やらでご無沙汰気味なのも事実。
おかげで直斗のシャドウの時は苦戦を強いられた。
「そうだな、準備をして置いてし過ぎと言うことはない、か」
幸い明日明後日は連休だ。悠自身最たる用事はない。
「あれ、でも陽介、バイトは?」
高々二日間の連休ではあるが、世間的には行楽シーズン。当然ジュネスもそれなりに忙しくなるはずだと思うのだが。
「いやー、ほら、もうすぐ中間じゃん? だからそれを口実にガッツリ休み貰ってるんだわ」
「え、でも今までテスト前にバイト休んだりしな――」
「ままま、細かいことは気にすんな! な!」
慌てて悠の言葉を遮ってくるあたり、これは何かある。
ふむ、と口に手を当てて悠は考え込んだ。
けれどバイトを休んでまで陽介がやりたいことなんて思いつかない。
今言いだしているレベル上げだってそうだ。これまでもそこそこやってきたという言葉通り、放課後の数時間とか休みの日の午後にちょこっととか。そんな感じで充分事足りていた――これから先が今まで通りで良いかと言われてばそうでないのは悠も感じている事ではあるが。
どちらにしても、いきなり忙しい連休のバイトを休んでまで陽介がやる、というのは腑に落ちない。
だとすれば残る可能性はひとつ。
「――おばさんに怒られた、とか」
「ぐ」
図星だ。
「はぁー、お前に隠し事しようってのがそもそも無理な話だよな」
悠からの会心の一撃を喰らって机に突っ伏した陽介が、両手を上げて降参する。
「実は――さ。夏休み明けにあった実力テストの結果、見つかっちまって」
別に陽介の母親は所謂教育ママではない。父親の職場でそれこそ身を削ってバイトをしてる事だって、褒めこそすれ叱ったりはしない人なはずだが。
「駄目だったのか?」
「――も、最悪」
一学期の通知表もおよそ良かったという話は聞かなかったし、夏休みの宿題も悠の手伝いのお陰でやっと仕上げた有様だった陽介が、抜き打ちのように行われた実力テストで好成績を取るという方が不思議か。
「で、さすがのお袋もこれは看過できないわってなもんでバイト禁止くらっちまって。まあ俺だって今度の中間で少しでも順位上げなきゃまずいのはわかってんだけど……なんつーのこう、若さの暴走っての? 机に齧りついて勉強とか柄じゃねぇんだって!!」
聞けばもう一週間以上バイトに行ってないらしい。
ほぼ毎日のようにジュネスに買い物に行っていた悠だが、全く気付かなかった。陽介はいつだって忙しく店内を駆け回っているので、今回もたまたま見かけないだけだと思っていたが、違ったらしい。
「いい加減ストレス溜まりまくりなんだって! こんなンで良い成績とか取れるわけねぇっつの!」
「それは……そうかも」
「だろ?!」
勉強ってのは本人のやる気がない状態で無理やり詰め込んでも、所詮その場しのぎだ。まあ、今の陽介の場合、そのその場しのぎでも点数が伸びれば越したことはないのだろうが、無理やり絞り出したやる気も底を突いているようだし。
理解できない事もない――が。
「だからって尤もそうな理由つけて逃げていいって話じゃないだろ」
「う、悪ぃ」
逃げ口上に使うには余りに不謹慎だと悠は陽介を改めて睨みつけた。その視線の強さに陽介は一瞬申し訳なさそうにうつむいたが、すぐにキッと顔を上げる。
「ンでも、ここんとこ出てくるシャドウ結構強くなってきてるし。マジでそろそろヤベェ気しねぇ?」
「ん、する」
悠だって陽介がストレス発散だけを理由にあんな事を言い出したわけじゃないことぐらいわかる。だから断る理由もない。
「いいよ、レベル上げしよう」
「ホントか!?」
「ただし――」
このまま陽介の成績を放置するのも問題だ。
「午前中だけにして、午後は一緒にテスト勉強すること」
「げぇ」
テレビの中と外とでは時間の感覚が違う。あっちで存分にレベル上げしてきても恐らく午後までもつれ込むことはないだろう。
「一人でやれとはいわないから。うちで一緒に勉強しよう」
体力的にはヘロヘロかも知れないが、学生の本分は勉強だし。悠とて陽介に教えるとなれば丁度いい復習になる。
「マジ?! 助かる! 俺一人じゃ限界あったんだよな。わかんねぇからってしょっちゅうお前に電話するのもなんだし」
「それも別にかまわないぞ? バイトとかで出れないときはあるかもしれないけど」
「ま、それはそれとして」
ん? もしかして今のはまた逃げ口上だったのだろうか。僅かに悠の眉間に皺がよる。
「じゃあ明日は午前中レベル上げで、その後ジュネスで昼飯買って、午後はお前ンちで勉強っつことでよろしく!」
「――了解」
「ててててっ」
笑って誤魔化そうとする陽介の頬を抓りながら、悠はにこやかに了承した。
アニメの10月前半設定。でも中身はかなりゲーム(PS2版)よりです。
でも主人公の名前は【鳴上悠】で。
個人的には結構好きなお話になったので、良かったらお手にとってやってください!
*****
「いいか、俺が来るまで絶対ここから出るんじゃねぇぞ」
「……でも、陽介――」
陽介だってこんなところに悠を一人で置いていくなんて不安で仕方がない。けれど、二人一緒に居たからといってこの状況が好転するわけじゃないのなら『攻め』に出るのが得策だ。
となると、ここはやっぱり自分が動かなきゃだめだろう。
(そう、今コイツ――鳴上悠――を守れるのは俺だけ)
相棒たる陽介だけだ。
「わかったな」
語気を強くしてその瞳を覗き込む。不安げに揺れていた悠の眼が一瞬見開かれ、その後ゆっくりと瞬かれる。
「わかった。陽介に任せた」
「おう、任された!」
バチンと音がするくらい綺麗なウィンクを残して陽介は静かに扉を閉めた。同時に悠が内側からカギをかける。
「すぐ戻ってくっから! 待ってろよ!」
扉越しに言い置くと返事を待たずに駆け出していく。
「頼んだぞ、陽介」
そんな陽介の足音が遠ざかるのを聞きながら、残された悠はどうしたものかとため息をついた。
*
時間は十八時間ほど遡る。
明日からは連休だというその日の放課後、陽介があることを悠に持ちかけたのが事の発端だ。
「レベル上げ?」
「そ、レベル上げ」
夕暮れが迫る教室で、僅かに残っている他のクラスメイトに聞こえないよう、机を挟んで身を寄せ合う。
「ほら、直斗とこないだ話した時に、真犯人は別にいるって話になったじゃん」
「ああ」
確かに、この間ジュネスの屋上で情報を整理した時、久保が犯人である可能性は否定された。何しろ久保は直斗が攫われたその日その時には警察に拘留されていたのだから。
「てーことは、だ」
より一層声のトーンを落として陽介が耳打ちをしてくる。
「いつ次の被害者出ても不思議はねぇわけだよな」
「陽介……」
不謹慎極まりないセリフに悠はため息をついてからキツイ視線で陽介を見返した。
「いやいやいや、俺だってわかってるよ? そんな事にならないに越したことはねぇってことぐらい。でも現実問題犯人の目星は全く付いてねぇじゃん」
『久保ではない』事。
『単独犯である』事。
後はまあ『男である』事はわかったが、それ以外は全くと言っていいほどわからない。
そんな大雑把な犯人像から特定の誰かつきとめるなんて芸当、簡単にできるわけがない。
いかな優秀な警察だとしても。
自分たちが『犯人』に一番近い場所に居るのは間違いないが、その自分たちだってこれ以上の情報は皆無だ。
とすれば、陽介の言う通り『いつ次の被害者が出ても不思議はない』と言うことになる。
「防げるもんなら防ぎたいし、防ぐ努力もを惜しむつもりもないけどな」
テレビでフィーチャーされた稲羽市に住んでいる人間を中心にチェックし、マヨナカテレビもチェックする。そうすれば次の被害者に注意喚起することは不可能じゃないが、絶対とは言い難い。
だから――。
「強くなっておいて損はないと?」
いつまたテレビの中で戦う羽目になるかはわからない。だったら余暇を使って自分の戦闘能力を少しでも上げておきたいというのが陽介の提案だ。
「そゆこと。まあ今までもやってきた事だけどな」
いきなりテレビの中に入り込んで以来何となくやってきた事ではあるが、夏休み以降――久保が捕まってから――はバイトやら修学旅行やらでご無沙汰気味なのも事実。
おかげで直斗のシャドウの時は苦戦を強いられた。
「そうだな、準備をして置いてし過ぎと言うことはない、か」
幸い明日明後日は連休だ。悠自身最たる用事はない。
「あれ、でも陽介、バイトは?」
高々二日間の連休ではあるが、世間的には行楽シーズン。当然ジュネスもそれなりに忙しくなるはずだと思うのだが。
「いやー、ほら、もうすぐ中間じゃん? だからそれを口実にガッツリ休み貰ってるんだわ」
「え、でも今までテスト前にバイト休んだりしな――」
「ままま、細かいことは気にすんな! な!」
慌てて悠の言葉を遮ってくるあたり、これは何かある。
ふむ、と口に手を当てて悠は考え込んだ。
けれどバイトを休んでまで陽介がやりたいことなんて思いつかない。
今言いだしているレベル上げだってそうだ。これまでもそこそこやってきたという言葉通り、放課後の数時間とか休みの日の午後にちょこっととか。そんな感じで充分事足りていた――これから先が今まで通りで良いかと言われてばそうでないのは悠も感じている事ではあるが。
どちらにしても、いきなり忙しい連休のバイトを休んでまで陽介がやる、というのは腑に落ちない。
だとすれば残る可能性はひとつ。
「――おばさんに怒られた、とか」
「ぐ」
図星だ。
「はぁー、お前に隠し事しようってのがそもそも無理な話だよな」
悠からの会心の一撃を喰らって机に突っ伏した陽介が、両手を上げて降参する。
「実は――さ。夏休み明けにあった実力テストの結果、見つかっちまって」
別に陽介の母親は所謂教育ママではない。父親の職場でそれこそ身を削ってバイトをしてる事だって、褒めこそすれ叱ったりはしない人なはずだが。
「駄目だったのか?」
「――も、最悪」
一学期の通知表もおよそ良かったという話は聞かなかったし、夏休みの宿題も悠の手伝いのお陰でやっと仕上げた有様だった陽介が、抜き打ちのように行われた実力テストで好成績を取るという方が不思議か。
「で、さすがのお袋もこれは看過できないわってなもんでバイト禁止くらっちまって。まあ俺だって今度の中間で少しでも順位上げなきゃまずいのはわかってんだけど……なんつーのこう、若さの暴走っての? 机に齧りついて勉強とか柄じゃねぇんだって!!」
聞けばもう一週間以上バイトに行ってないらしい。
ほぼ毎日のようにジュネスに買い物に行っていた悠だが、全く気付かなかった。陽介はいつだって忙しく店内を駆け回っているので、今回もたまたま見かけないだけだと思っていたが、違ったらしい。
「いい加減ストレス溜まりまくりなんだって! こんなンで良い成績とか取れるわけねぇっつの!」
「それは……そうかも」
「だろ?!」
勉強ってのは本人のやる気がない状態で無理やり詰め込んでも、所詮その場しのぎだ。まあ、今の陽介の場合、そのその場しのぎでも点数が伸びれば越したことはないのだろうが、無理やり絞り出したやる気も底を突いているようだし。
理解できない事もない――が。
「だからって尤もそうな理由つけて逃げていいって話じゃないだろ」
「う、悪ぃ」
逃げ口上に使うには余りに不謹慎だと悠は陽介を改めて睨みつけた。その視線の強さに陽介は一瞬申し訳なさそうにうつむいたが、すぐにキッと顔を上げる。
「ンでも、ここんとこ出てくるシャドウ結構強くなってきてるし。マジでそろそろヤベェ気しねぇ?」
「ん、する」
悠だって陽介がストレス発散だけを理由にあんな事を言い出したわけじゃないことぐらいわかる。だから断る理由もない。
「いいよ、レベル上げしよう」
「ホントか!?」
「ただし――」
このまま陽介の成績を放置するのも問題だ。
「午前中だけにして、午後は一緒にテスト勉強すること」
「げぇ」
テレビの中と外とでは時間の感覚が違う。あっちで存分にレベル上げしてきても恐らく午後までもつれ込むことはないだろう。
「一人でやれとはいわないから。うちで一緒に勉強しよう」
体力的にはヘロヘロかも知れないが、学生の本分は勉強だし。悠とて陽介に教えるとなれば丁度いい復習になる。
「マジ?! 助かる! 俺一人じゃ限界あったんだよな。わかんねぇからってしょっちゅうお前に電話するのもなんだし」
「それも別にかまわないぞ? バイトとかで出れないときはあるかもしれないけど」
「ま、それはそれとして」
ん? もしかして今のはまた逃げ口上だったのだろうか。僅かに悠の眉間に皺がよる。
「じゃあ明日は午前中レベル上げで、その後ジュネスで昼飯買って、午後はお前ンちで勉強っつことでよろしく!」
「――了解」
「ててててっ」
笑って誤魔化そうとする陽介の頬を抓りながら、悠はにこやかに了承した。