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 【花鳴】LOVElace (オフラインサンプル)

HARUCOMICCITY18合わせの新刊サンプルです。

アニメ陽介の心情を時系列にそって考えてみようと書き始めたはずなのですが、なんか微妙に敗北感(/_;) 
でも実はこの本去年のスパークの新刊予定だったこともあり、本に出来てとても嬉しいです!
良かったらお手にとってやってください♪




*****



我は汝――汝は我――

薄暗いテレビの中で右拳を握り締め呟く。

「ペ……ル……ソ……ナ」

下から吹き上がるような風を起こし悠の後ろから現れた大きな影を、陽介はただ呆然と見つめる。
目の前の不気味な物体をその影が大きな刀で薙ぎ倒す。
そして、悠の口元に浮かぶ勝ち誇ったかのような笑み。

――なんだよ! なんなんだよ!!

ぞわぞわと自分の背中を駆け上がってくるものがなんなのか、陽介にはまったくわかっていなかった。































*** 七月十九日 火曜日 曇


『気に入らない』

それが陽介が感じた悠への一番最初の感情だった。
自分と同じ都会からの転校生が、自分と同じく田舎に絶望し身を持ち崩す様――という言い方は適当ではないか――をニヤニヤと眺めるつもりでいたのに、当の悠は割と難なくここ――八十稲羽になじんでしまった。しかも染まりきってしまうこともなく垢抜けた印象はそのままに。
早々に自分の置かれた状況を甘受してしまった陽介としては非常に面白くない状況だ。
こんな風に悠が転校してくるとわかっていたら、半年で仲間が現れると知っていたら、もしかしたらここまで現状に絶望することもなかったのかもしれないと思うと、余計に腹が立つ。
言ってしまえば自業自得であるのは百も承知。それでも自分が足掻いて足掻いてそれでもどうにもならなかったことを、いともあっさりやり遂げている人間をすぐそばで見続けるなんて事になれば、その相手を好きになんてなれるはずがない。

更に言えば。

稲羽市で起きている連続殺人事件とマヨナカテレビの関係性に気付いたのだって、特別捜査本部を設置したのだって陽介だ。それがいつの間にか悠がリーダーに収まってしまい、自分はすっかりサブに回ってしまっている。
これを面白くないと思わない奴などいるのだろうか。

そんなことを考えながら、教室の扉をくぐり自分の席へとたどり着く。

「おーっす、鳴上」
「花村。おはよう」

前の席には見慣れた悠の姿。
無視をするのも気が引けて軽く挨拶をすると、手にした本から僅かに眼を上げて悠が返事をした。

(『たそがれて…漢』? なんだそりゃ)

見るとは無しに目に入った本のタイトルに苦笑いを浮かべつつ、ペンケースだけを机の上に置いて席につくと、知らず小さなため息が出た。

確かにテレビの中に入れたのは悠の功績だろう。なんでか知らないが彼はその能力を持ち合わせていた。
なぜそれが陽介じゃなかったのか。悠と自分の何が違うのか。


――コイツサエイナケレバ

現れた自分のシャドウが言った通り、ワクワクしていた。
大好きな先輩が死んでしまったのにもかかわらず、ふって沸いた不思議な事件に魅了され、舞い上がった。

――コイツサエイナケレバ


気付けば教室はもうだいぶ賑やかになっていて、後五分もすれば柏木が来るだろう。
殺された諸岡の代わりに新たに担任になった柏木が。

「なあ、鳴上。お前、柏木ってどう思う?」
「どうもこうも、別に。好みじゃない」
「好みじゃないってお前」

毎度の事ながら表情ひとつ変えない悠にため息が出る。

「何だ花村、ああいうのが好みなのか? だったら応援するぞ」
「丁重にお断りさせていただきます」
「遠慮しなくて良い」
「してませんー」

馬鹿な掛け合いも最近苦にならなくなってきた。元来持ち合わせているツッコミ気質が悠のボケを放置できない。
こんなところが傍から見たら仲が良く見えるらしく、すっかりセット扱いだ。
けれど、陽介の気持ちは四月からさしたる変化はない。
いや、どちらかというと更に悪くなっているかもしれない。
いつの間にか定着してしまった相棒ポジションが、悠の活躍が一番良く見える場所なだけに気持ちがどんどん淀んでいく。

何とかしたいと思いつつさしたる行動に出られないまま、気がつけば七月も半ばも過ぎ、今日からは期末試験だ。
なんだかんだと事件に振り回されロクに勉強もできなかったが、それでもまあ何とかなる――はずもなく。
転校当初こそ進度の関係で余裕でいられた授業も、半年足らずですっかり元の木阿弥。いや、それ以上か。一年の三学期末試験の結果は惨憺たるもので、およそ勉強にうるさくない陽介の母親ですらため息をつかずにいられない有様。

「おはよぉ〜ん、みなさぁ〜ん。テスト、始めるわよぉ〜」
しな(・・)を作りながら教室に入ってきた柏木がテスト用紙を配り始めた。一番前の席の生徒がそれを受け取り、自分の分だけを手に取って後ろに回す。当然陽介には悠の手からそれが渡される。

「花村?」

受け取りもせずじっとそれを見つめていた陽介を不審に思った悠が、怪訝そうに覗き込んできた。

「あ、悪ぃ」

些かひったくる形になったが、まあ大したことはないだろう。そう思い自分の分を手にして後ろに回し前を向き直ると、悠が先ほどの姿勢のままこちらをじっと見つめていた。

「っ、なんだよ」
「……花村、あの」
「はぁ〜い、じゃあ、始めぇ〜」

空気を読まない新担任はテスト用紙が行き渡ったかを確認することもせず、テスト開始を宣言する。
何かを言いかけた悠だったが、さすがにこれでは続きを話すわけにもいかず、ぐっと飲み込むようにして前を向いた。

(ったく、なんだってんだ?)

何を考えているのかわかり辛い悠の視線は陽介をゾワゾワさせる。
そうでなくても集中できそうにない試験なのに、これでは結果は見るまでもなく明らかだ。

だというのに。

今目の前で一学期末試験と向き合ってる悠のペンはまったく止まる気配をみせない。

(いったいいつ勉強してんだよ、こいつは)

どれだけ陽介と差をつけたら気が済むのかと、今度は怒りがこみ上げてくる。

何とかりせを救出したのが六月の末。安心したのもつかの間、今度は諸岡が死体となって発見された。
ただ、今回は警察の方が一足早く容疑者を特定し、それが自分たちの推理ともそうかけ離れてもいず、とうとう事態は収束に向かい始めた。
それが、陽介には残念で仕方がない。
もちろん、人が死ねば良いなんて思っているわけじゃない。
あれだけ煙たがっていた諸岡だって、死んだとなれば悲しいしショックだ。
けれど事件が解決するということは、つまり自分はもうヒーローになれないって事で。

――コイツサエイナケレバ

そう思う自分が胸の奥に潜んでいる。
本当は悠がいなければ自分も先輩と同じように翌朝死体となって発見されたかもしれないとわかっているのに。

自分が欲しくて欲しくて手に入れられないものを、いともあっさり手にした悠が。

――陽介は嫌いだった。