【花主】キレイなお兄ちゃんがだいすきです (オフラインサンプル)
3/18の春シティ新刊サンプルです。
アニメ準拠の花村×鳴上本。菜々子多め;;
*****
自分で自分を持て余すというのはこういう事を言うのかと、陽介は教室の机に突っ伏しながら思った。ここ数日、小さなイライラが積もり積もって、今では身体の全てを支配し尽くす勢いだ。それというのも、すぐ前の席で能天気に千枝や雪子と談笑をする『鳴上悠』のせいに他ならない。
「そうなんだよ、それでね」
「やだ、千枝ったら。そんなの鳴上君がかわいそうじゃない」
「そうかな。でもさ」
会話の内容は全くと言って良いほど頭に入ってはこないが、そこは問題じゃない。問題なのは悠を取り巻く奴らの瞳。憧憬と言うか、尊敬と言うか。つまりはそう、『恋する瞳』なのだ。老若男女問わずその『瞳』で悠を見つめる。
(ま、ぶっちゃけオレだってそうなんだけど)
悠がモテる理由がわからないわけじゃない。これだけ人当たりが良く、そつなく何でもこなし、よく気がつき、頼りになり、優しい。そんな、およそどこぞの恋愛ゲームの中に出てくるヒロインのような人間が現実世界にいるとは、陽介だってびっくりだ。
「リアルラ○プラスかよ」
と、悪態をついてみるものの、自分自身もその魅力に惹きつけられているのだから、他人を責める事など出来るはずもない。
「ちょっと花村! あんたソレ、止めてくんない」
陽介が突っ伏していた机に乱暴に手をついた千枝が、頭の上から文句を降らせた。
「何がだよ」
「何がじゃないっつの。貧乏ゆすり!」
「あ?」
自分では気付かないうちに足をがたがたと揺すっていたようで、それが前の席で悠と談笑していた千枝まで伝わっていたようだ。
「うるせぇな。良いじゃん、貧乏ゆすりぐれぇ」
「良いわけないじゃん。行儀悪い」
「ジュネスの王子が、貧乏ゆすり……貧乏……ぷ、くくく」
普段だったらそこは素直にあやまって、すぐにでも止めているところだが、今日はとてもじゃないけどそんな気分になれない。むしろ。
「あーも! 何で余計に揺すってんのよ! ガタガタうるさいっつの!」
こうやって自分に関心を引き寄せていれば、『悠に恋する瞳』を目の当たりにすることもなくなる。良い考えだとは思うが、その分かなり感情がささくれ立つ。
「んとに、ガキかあんたは」
「うっせ」
そんな捨て身の作戦――と言う程でもないが――も効果は一瞬。あれだけ文句を言いつつも、机から顔も上げずに反抗する陽介に、呆れた千枝はあっという間に悠との会話を再開させた。
「ねね、鳴上クンは今日何か予定ある?」
そして、千枝の目はみるみる『恋する瞳』に摩り替わる。ジリッと胸が焦げる音が聞こえた気がした。
(悠も悠だ、そんな無防備な顔で笑いかけんじゃねぇ!)
明らかに嫉妬であることはわかっている。でも、本来ならそんな嫉妬など感じるはずはないのだ。
何せ、自分は明らかに『悠の特別』であるのだから。いったい自分の何が悠の心を捉えたのかはわからないが、少なくとも現在の悠の交際相手は『花村陽介』に他ならない。
セックスだってした。同性同士のそれがどれほど高いハードルかはわかっているつもりだ。それなのに悠は陽介を受け入れてくれた。これが何よりの証拠だと思っている。
(つまりはなんだ、欲求不満なのかオレ)
『相棒』としての位置を対外的には確立し――本当は恋人同士だがまさか周囲にふれ回るわけにも行かない――お互いを名前で呼び合うようになって、二人でじゃれていても『またやってるよ』ぐらいの反応になっているのだから、スキンシップが足りないと言うことはない。
でも、足りないのは『性的な』スキンシップだ。陽介の家には普段から母親がいるし、クマだっている。悠の家は菜々子が悠の帰りをいつも楽しみに待っている。そんな従兄妹を蔑ろにして二人で部屋にこもるなど出来るはずもない。いや、もし出来たとしてもさして防音の整っている家とは言えない堂島家で、階下に菜々子がいる状態でのHが出来るほど、陽介の心臓に毛は生えていない。
「アー――! クソッ!」
これだけイライラすれば、そりゃあ貧乏ゆすりの一つや二つ自然と出てしまったとしても仕方ないことだ。
「あんた、マジうるさいわ」
なのに、涼しい顔で談笑する悠の気が知れない。
(つかあいつ、性欲ないんじゃねぇの)
そう思うこともしばしば。まあ、一般高校生並みの物は持ち合わせて入るだろうが。それ以上にやはり受身の身体は負担が大きいのかもしれない。たまに身体を寄せた時はどうしてもガツガツと貪ってしまうからだろう。終わった後はいつも辛そうだ。陽介がもう少し大事に扱えればそうでもないのだろうが、そんな余裕あるわけがない。
「あ、いたいた。悠センパーイ!」
「りせ」
また一人、悠の取り巻きが登場だ。いつの間に『りせ』とか呼ぶようになったんだと、またイライラがこみ上げる。
「ね、セーンパイ。今日一緒に帰ろ。あのね、りせ行きたい所があるんだけどぉ」
甘えを含んだ甘ったるい声が傍で聞こえ、陽介はとうとう我慢の限界に達した。
「うるせーな! 一年が二年の教室にホイホイ入ってくんじゃねぇよ!」
椅子から音を立てて立ち上がり、りせを見下ろすようにして凄む。
(みっともねぇ)
わかってはいるが、もうだめだ。
「何よ、別にいーじゃない。私とセンパイの仲なんだし。ね、セーンパイ」
座っている悠の腕を引っ張りあげるようにして、身体を寄せるのに腹が立つ。
「うるせぇったらうるせぇ! なんだよ、何が悠センパイと私の仲だよ! うるせぇよ!」
「うるさいのは花村でしょ。ったく、朝からずっとイライラしててウザイったらないじゃん」
「ウザ?!」
確かに、周囲に当り散らしこそ今の今までしてなかったが、一日中不機嫌でいたことは違いない。
でも、りせとなんか出かけて欲しくない。と言うか、自分以外の誰とも出かけないで欲しい。本当は誰にも笑いかけないで欲しい。誰にも見られないで欲しい。
(オレだけの鳴上悠でいて欲しい……)
なんて言える訳もない。
ので、仕方なく悠を見つめるのみだ。
「ごめん、りせ。おれ今日は早く帰らなくちゃいけないんだ」
陽介の視線の意味に気付いたかはわからない。でも、図らずも悠の口をついて陽介の希望通りの台詞が出たのが嬉しい。
「ええぇー! つまんないー」
「ごめんな」
けれど、すまなそうな笑顔をりせに向けたことで苛立ちがまた戻ってきた。
「そーいうワケだから! とっとと帰った!」
まだ寄せたままだったりせの身体を悠から引き剥がすようにして間に入り込む。女子の身体などそれほど力を入れなくてもいいのに、つい思い切り振り払ってしまいそうになり、自分に嫌気がさす。
「ちょ、花村あんたホントどうしたの。“りせちー”にそんなことするなんて、らしくないじゃん」
自分でもそう思う。でももう悠の周りは全て敵に見えてしまう。ある意味、あの事件が片付いた後で本当に良かった。いや、むしろ事件が片付いたことで時間にも気持ちにも余裕ができ、こんな考えても仕方がないようなことが自分の中を駆け巡るようになってしまったのかもしれない。
「具合でも悪いのか?」
心配そうに覗き込む顔。長い前髪でわかり辛いが、その端整な顔立ちをこんな近くで見れるのは自分の特権だと思うのに、そのキレイな顔すら憎らしくなる。
「熱でもあるんじゃないか?」
陽介が答えもせず潤んだ眼で見つめ返していたからだろう。悠が更に眉間に皺を寄せて、陽介の額に手を伸ばしてきた。
――パン!
瞬間、乾いた音が教室内に響く。
何の音かわからなかったのはほんの一瞬。それは陽介の手が悠の手を強く振り払った音だった。
悠の驚いて見開いた瞳が陽介の胸にグサグサと刺さる。
「ごめん、調子悪いからオレ、もー帰るわ」
これ以上ここにいたら、自分が何をするかわかったものじゃない。それならばともかく『悠に恋する瞳』の見えないところに避難するしかない。
「じゃな」
「陽介……」
力ない笑みを残して、陽介は教室から一目散に逃げ出した。
アニメ準拠の花村×鳴上本。菜々子多め;;
*****
自分で自分を持て余すというのはこういう事を言うのかと、陽介は教室の机に突っ伏しながら思った。ここ数日、小さなイライラが積もり積もって、今では身体の全てを支配し尽くす勢いだ。それというのも、すぐ前の席で能天気に千枝や雪子と談笑をする『鳴上悠』のせいに他ならない。
「そうなんだよ、それでね」
「やだ、千枝ったら。そんなの鳴上君がかわいそうじゃない」
「そうかな。でもさ」
会話の内容は全くと言って良いほど頭に入ってはこないが、そこは問題じゃない。問題なのは悠を取り巻く奴らの瞳。憧憬と言うか、尊敬と言うか。つまりはそう、『恋する瞳』なのだ。老若男女問わずその『瞳』で悠を見つめる。
(ま、ぶっちゃけオレだってそうなんだけど)
悠がモテる理由がわからないわけじゃない。これだけ人当たりが良く、そつなく何でもこなし、よく気がつき、頼りになり、優しい。そんな、およそどこぞの恋愛ゲームの中に出てくるヒロインのような人間が現実世界にいるとは、陽介だってびっくりだ。
「リアルラ○プラスかよ」
と、悪態をついてみるものの、自分自身もその魅力に惹きつけられているのだから、他人を責める事など出来るはずもない。
「ちょっと花村! あんたソレ、止めてくんない」
陽介が突っ伏していた机に乱暴に手をついた千枝が、頭の上から文句を降らせた。
「何がだよ」
「何がじゃないっつの。貧乏ゆすり!」
「あ?」
自分では気付かないうちに足をがたがたと揺すっていたようで、それが前の席で悠と談笑していた千枝まで伝わっていたようだ。
「うるせぇな。良いじゃん、貧乏ゆすりぐれぇ」
「良いわけないじゃん。行儀悪い」
「ジュネスの王子が、貧乏ゆすり……貧乏……ぷ、くくく」
普段だったらそこは素直にあやまって、すぐにでも止めているところだが、今日はとてもじゃないけどそんな気分になれない。むしろ。
「あーも! 何で余計に揺すってんのよ! ガタガタうるさいっつの!」
こうやって自分に関心を引き寄せていれば、『悠に恋する瞳』を目の当たりにすることもなくなる。良い考えだとは思うが、その分かなり感情がささくれ立つ。
「んとに、ガキかあんたは」
「うっせ」
そんな捨て身の作戦――と言う程でもないが――も効果は一瞬。あれだけ文句を言いつつも、机から顔も上げずに反抗する陽介に、呆れた千枝はあっという間に悠との会話を再開させた。
「ねね、鳴上クンは今日何か予定ある?」
そして、千枝の目はみるみる『恋する瞳』に摩り替わる。ジリッと胸が焦げる音が聞こえた気がした。
(悠も悠だ、そんな無防備な顔で笑いかけんじゃねぇ!)
明らかに嫉妬であることはわかっている。でも、本来ならそんな嫉妬など感じるはずはないのだ。
何せ、自分は明らかに『悠の特別』であるのだから。いったい自分の何が悠の心を捉えたのかはわからないが、少なくとも現在の悠の交際相手は『花村陽介』に他ならない。
セックスだってした。同性同士のそれがどれほど高いハードルかはわかっているつもりだ。それなのに悠は陽介を受け入れてくれた。これが何よりの証拠だと思っている。
(つまりはなんだ、欲求不満なのかオレ)
『相棒』としての位置を対外的には確立し――本当は恋人同士だがまさか周囲にふれ回るわけにも行かない――お互いを名前で呼び合うようになって、二人でじゃれていても『またやってるよ』ぐらいの反応になっているのだから、スキンシップが足りないと言うことはない。
でも、足りないのは『性的な』スキンシップだ。陽介の家には普段から母親がいるし、クマだっている。悠の家は菜々子が悠の帰りをいつも楽しみに待っている。そんな従兄妹を蔑ろにして二人で部屋にこもるなど出来るはずもない。いや、もし出来たとしてもさして防音の整っている家とは言えない堂島家で、階下に菜々子がいる状態でのHが出来るほど、陽介の心臓に毛は生えていない。
「アー――! クソッ!」
これだけイライラすれば、そりゃあ貧乏ゆすりの一つや二つ自然と出てしまったとしても仕方ないことだ。
「あんた、マジうるさいわ」
なのに、涼しい顔で談笑する悠の気が知れない。
(つかあいつ、性欲ないんじゃねぇの)
そう思うこともしばしば。まあ、一般高校生並みの物は持ち合わせて入るだろうが。それ以上にやはり受身の身体は負担が大きいのかもしれない。たまに身体を寄せた時はどうしてもガツガツと貪ってしまうからだろう。終わった後はいつも辛そうだ。陽介がもう少し大事に扱えればそうでもないのだろうが、そんな余裕あるわけがない。
「あ、いたいた。悠センパーイ!」
「りせ」
また一人、悠の取り巻きが登場だ。いつの間に『りせ』とか呼ぶようになったんだと、またイライラがこみ上げる。
「ね、セーンパイ。今日一緒に帰ろ。あのね、りせ行きたい所があるんだけどぉ」
甘えを含んだ甘ったるい声が傍で聞こえ、陽介はとうとう我慢の限界に達した。
「うるせーな! 一年が二年の教室にホイホイ入ってくんじゃねぇよ!」
椅子から音を立てて立ち上がり、りせを見下ろすようにして凄む。
(みっともねぇ)
わかってはいるが、もうだめだ。
「何よ、別にいーじゃない。私とセンパイの仲なんだし。ね、セーンパイ」
座っている悠の腕を引っ張りあげるようにして、身体を寄せるのに腹が立つ。
「うるせぇったらうるせぇ! なんだよ、何が悠センパイと私の仲だよ! うるせぇよ!」
「うるさいのは花村でしょ。ったく、朝からずっとイライラしててウザイったらないじゃん」
「ウザ?!」
確かに、周囲に当り散らしこそ今の今までしてなかったが、一日中不機嫌でいたことは違いない。
でも、りせとなんか出かけて欲しくない。と言うか、自分以外の誰とも出かけないで欲しい。本当は誰にも笑いかけないで欲しい。誰にも見られないで欲しい。
(オレだけの鳴上悠でいて欲しい……)
なんて言える訳もない。
ので、仕方なく悠を見つめるのみだ。
「ごめん、りせ。おれ今日は早く帰らなくちゃいけないんだ」
陽介の視線の意味に気付いたかはわからない。でも、図らずも悠の口をついて陽介の希望通りの台詞が出たのが嬉しい。
「ええぇー! つまんないー」
「ごめんな」
けれど、すまなそうな笑顔をりせに向けたことで苛立ちがまた戻ってきた。
「そーいうワケだから! とっとと帰った!」
まだ寄せたままだったりせの身体を悠から引き剥がすようにして間に入り込む。女子の身体などそれほど力を入れなくてもいいのに、つい思い切り振り払ってしまいそうになり、自分に嫌気がさす。
「ちょ、花村あんたホントどうしたの。“りせちー”にそんなことするなんて、らしくないじゃん」
自分でもそう思う。でももう悠の周りは全て敵に見えてしまう。ある意味、あの事件が片付いた後で本当に良かった。いや、むしろ事件が片付いたことで時間にも気持ちにも余裕ができ、こんな考えても仕方がないようなことが自分の中を駆け巡るようになってしまったのかもしれない。
「具合でも悪いのか?」
心配そうに覗き込む顔。長い前髪でわかり辛いが、その端整な顔立ちをこんな近くで見れるのは自分の特権だと思うのに、そのキレイな顔すら憎らしくなる。
「熱でもあるんじゃないか?」
陽介が答えもせず潤んだ眼で見つめ返していたからだろう。悠が更に眉間に皺を寄せて、陽介の額に手を伸ばしてきた。
――パン!
瞬間、乾いた音が教室内に響く。
何の音かわからなかったのはほんの一瞬。それは陽介の手が悠の手を強く振り払った音だった。
悠の驚いて見開いた瞳が陽介の胸にグサグサと刺さる。
「ごめん、調子悪いからオレ、もー帰るわ」
これ以上ここにいたら、自分が何をするかわかったものじゃない。それならばともかく『悠に恋する瞳』の見えないところに避難するしかない。
「じゃな」
「陽介……」
力ない笑みを残して、陽介は教室から一目散に逃げ出した。