【花主】ぴんくのなみなみ
2010年のSCCで無料配布したものです。
配布時には乱丁かましたり、今見返したら誤字拾いきれてなかったり、文章がおかしいところがあったりと、ひどい有様でしたorz
そんな勢いだけのお話ですが、自戒も込めてUPってみます;;
上記部分は訂正したつもりだけれども、まだあったらすみませんー!!
*****
今日も今日とてジュネスでバイト。
放課後テレビに行かない時は、大概こうしているのだが、これがテレビより疲れる。
それに、今日はひとつ心配事もあって気が乗らない。
「っつっても、もう体育しちまったし、今更なんだけどな」
心配事はさっき陽介の携帯に入った一本のメールが原因だ。
母親がちょっと浮かれて送ってきたその内容は。
『給湯器壊れちゃった。お夕飯作れないし、お風呂も使えないから、お父さんとお出かけしてくるわね。今日は帰らないから留守番よろしくー』
と言う、トンでもない内容で。
俺の飯は! 風呂どうしろって言うんだよ! という陽介の返信には反応がない。
この年になって親にべったりしてたいわけでもないが、こう無碍に放置されると、心が痛い。
「くっそ、おしどり夫婦なんか大嫌いだ」
「好き嫌いすると大きくなれないって、お兄ちゃんが言ってた」
思わず漏れた泣き言をひろわれ、驚いて声のする方に顔を向ける。
「あっれ、菜々子ちゃん」
「何でも食べないと、駄目なんだって」
「あー、いやさっきのはそうじゃなくて……って、いっか、それは」
中途半端に陽介の台詞を聞きとったようで、どうにも噛み合わない会話を修正しようと思ったが、そもそも泣き言なわけだし、きょとんと首をかしげる菜々子に聞かせなくてもいい。
「ところで菜々子ちゃん、一人出来たの?」
「お兄ちゃんときた。あそこー」
指された方に視線を向けると、日用品売り場の通路で何かをじっと見ている孝介を見つけた。
「何やってんだ?」
「菜々子に買ってくれるの!」
『何を?』と問いかける間もなく駆けていった菜々子の足音に気づいて、孝介が顔をこちらに向ける。バチリと目が合うと、手にしていた物をそのままに軽く手を上げてよこした。
「あ? 何だあれ?」
孝介が手にしていたのは、ピンクのなみなみした輪っか。遠目でよくは見えないが、あそこは確か風呂用品だった気がする。なんだろうと思い首をかしげていると、孝介が手招いた。
「なあ、これとこれ、どう違うんだ?」
「あ? ああ、何かと思えばシャンプーハットかよ」
近くで見ればその形態は明らかにシャンプーハット。孝介の両手にはオーソドックスなピンクの物と、キャラクター物。他にも棚には透明なものや、フロント部分だけ張り出したものと、取り揃え万全だ。
「菜々子ね、かものはしさんが欲しかったんだけど、なかった」
「そっか」
「おれはこんなにあると思わなかった」
確かに高校生がシャンプーハットを目にする機会はそうはないだろう。形状以外の違いなど、パッと見わからないのも仕方がない。
「あーっと、これは頭に当たる部分がゴムでできてっから締め付けられて痛いってのがあんまない」
陽介だって使ったわけじゃないから、商品知識としてしかしらないが、せめてもの手助けになるならと説明してみる。
「んで、こっちは耳の後ろのガードががっちりしてて、こっちは後ろ側のガードはなくて洗いやすい」
「へー、凄いな陽介」
「こう言うことなら任せとけって」
普段、孝介の役に立つことが少ないだけに、ちょっと照れくさくもあるが鼻が高い。
「じゃあ、菜々子、これとこれ、どっちがいい?」
後ろのガードが少ない物を二種類手に取り、孝介が菜々子の前に差し出した。
「うーんとね、こっち!」
「わかった、じゃあそれ買って帰ろう」
「うん!」
新しいシャンプーハットを抱えてレジへ向かう菜々子は嬉しそうだ。
「しっかし、懐かしいよなーシャンプーハット。ちっちゃい頃はあれないと風呂にも入れ……あー……」
二人とのやり取りですっかり忘れていた。もうすぐ上がりの時間だし、夕飯は買って帰るとして。
「どうすっかな」
ちらり、と孝介の顔を見る。ここはもしかして、チャンス到来なのか?
「あのさ」
「ん?」
口が渇く。飲み込む物もないのに喉がなる。
「その、今日さ」
「おにいちゃーん! はやくー!」
「あ、うん今行く」
意を決して口を開いた瞬間、レジから菜々子の声がしてそれを遮った。
「悪い陽介、ちょっと待って買ってくるから」
「お、おう」
ダハーッと力が抜ける。別に『今夜風呂かしてくれ』ぐらい大した話じゃないのに、やけに緊張するのは、孝介の風呂上りの濡れた肌も見れるんじゃないかと期待するから。
それでも、こんなチャンスめったにない。気を取り直して大きく息を吸い込んだ。
「ごめん陽介、なんだった?」
「いや、実はさ。俺んちの風呂壊れちまって」
緊張の余り早口になってるのがバレてないだろうか。ドキドキと高鳴る胸の音も聞こえてないだろうか。
「ようすけお兄ちゃん、お風呂入れないの?」
「そうなんだよー」
孝介を直視できずに菜々子の視線に降りる。
ちょっとの沈黙が凄く長く感じる。
「何だ、そういうことならはやくいえよ。いいよ」
「え」
緊張がピークに達しかけた時、待っていた一言が耳に届いた。
「菜々子、ようすけお兄ちゃんが今日お風呂入りにくるって」
思わず小さくガッツボーズをとってしまって、慌てて掌を開いてすり合わせる。恐る恐る孝介を見ると、菜々子の頭を撫でていて、気がついてないみたいだ。
「ほんと?! じゃあ、菜々子と一緒に入る?」
「や、それは……堂島さんが怖い」
「なんで? お父さんやさしいよ?」
それは菜々子には優しいだろうが……大事なひとり娘が、まだ小さいとはいえ、家族でもない男と風呂に入ったなんて聞いたらどんな事になるか……。
「じゃあ、お兄ちゃんと入る?」
「んぁ?!」
「菜々子?!」
想像だにしない提案を――本当のところ想像したことは多々あるが――さらりとされて、陽介は慄いた。それは孝介も同じだったようで、慌てて菜々子の前にしゃがみ込んだ。
「あのな? お兄ちゃんたちは高校生なんだから一人で入れるぞ?」
「でも、ようすけお兄ちゃんお風呂入れないっていったよ?」
訳のわからないことを言われて、二人顔を見合わせる。が、すぐに陽介はさっき菜々子にきかれて『そうだ』と答えたのを思い出す。
「あー、あれか。ごめん菜々子ちゃん、そう言う意味じゃなくて、家のお風呂が壊れちゃったから今夜お風呂に入ることが出来ないだけなんだ。でも、菜々子ちゃんちでお風呂を貸してくれるなら、一人で入れるから大丈夫だよ」
二人で入るならそれはもうこの世の天国だが。さすがにそれは口に出せない。
「そうなの? でもみっちゃんがあそびに来たとき、お父さんいっしょに入りなさいって言うよ?」
「えーっと……」
これは喜んでいいのか? のっかっちゃっていいのか? 余りな事態に陽介の頭はヒートアップしていく。ここはもう一か八かだ!
「じゃあ、一緒にはい――」
「菜々子、遅くなるから帰るぞ」
意を決して孝介に笑顔で提案しようと口を開いたとたん、大きな声で遮られた。
「ようすけお兄ちゃんは?」
「今日はこないって」
「え、おい、ちょっと、マジで?!」
ヤバイ調子に乗りすぎた。これでは本末転倒じゃないか。
「ウソウソウソ、一人で入るから! たのみます、神様仏様孝介様!」
菜々子の手をとって歩きはじめた背中に、必死に訴える。何とか止まってくれた孝介の腕にすがりつく。
「――勝手にしろ」
小さく振り払った孝介の目の端が、僅かに紅潮していたことにそこで初めて気が付いた。
「もしかして、あいつ、テレてんの……か?」
だとしたら、さっきの菜々子の提案が叶う日もそう遠くないかもしれない。
配布時には乱丁かましたり、今見返したら誤字拾いきれてなかったり、文章がおかしいところがあったりと、ひどい有様でしたorz
そんな勢いだけのお話ですが、自戒も込めてUPってみます;;
上記部分は訂正したつもりだけれども、まだあったらすみませんー!!
*****
今日も今日とてジュネスでバイト。
放課後テレビに行かない時は、大概こうしているのだが、これがテレビより疲れる。
それに、今日はひとつ心配事もあって気が乗らない。
「っつっても、もう体育しちまったし、今更なんだけどな」
心配事はさっき陽介の携帯に入った一本のメールが原因だ。
母親がちょっと浮かれて送ってきたその内容は。
『給湯器壊れちゃった。お夕飯作れないし、お風呂も使えないから、お父さんとお出かけしてくるわね。今日は帰らないから留守番よろしくー』
と言う、トンでもない内容で。
俺の飯は! 風呂どうしろって言うんだよ! という陽介の返信には反応がない。
この年になって親にべったりしてたいわけでもないが、こう無碍に放置されると、心が痛い。
「くっそ、おしどり夫婦なんか大嫌いだ」
「好き嫌いすると大きくなれないって、お兄ちゃんが言ってた」
思わず漏れた泣き言をひろわれ、驚いて声のする方に顔を向ける。
「あっれ、菜々子ちゃん」
「何でも食べないと、駄目なんだって」
「あー、いやさっきのはそうじゃなくて……って、いっか、それは」
中途半端に陽介の台詞を聞きとったようで、どうにも噛み合わない会話を修正しようと思ったが、そもそも泣き言なわけだし、きょとんと首をかしげる菜々子に聞かせなくてもいい。
「ところで菜々子ちゃん、一人出来たの?」
「お兄ちゃんときた。あそこー」
指された方に視線を向けると、日用品売り場の通路で何かをじっと見ている孝介を見つけた。
「何やってんだ?」
「菜々子に買ってくれるの!」
『何を?』と問いかける間もなく駆けていった菜々子の足音に気づいて、孝介が顔をこちらに向ける。バチリと目が合うと、手にしていた物をそのままに軽く手を上げてよこした。
「あ? 何だあれ?」
孝介が手にしていたのは、ピンクのなみなみした輪っか。遠目でよくは見えないが、あそこは確か風呂用品だった気がする。なんだろうと思い首をかしげていると、孝介が手招いた。
「なあ、これとこれ、どう違うんだ?」
「あ? ああ、何かと思えばシャンプーハットかよ」
近くで見ればその形態は明らかにシャンプーハット。孝介の両手にはオーソドックスなピンクの物と、キャラクター物。他にも棚には透明なものや、フロント部分だけ張り出したものと、取り揃え万全だ。
「菜々子ね、かものはしさんが欲しかったんだけど、なかった」
「そっか」
「おれはこんなにあると思わなかった」
確かに高校生がシャンプーハットを目にする機会はそうはないだろう。形状以外の違いなど、パッと見わからないのも仕方がない。
「あーっと、これは頭に当たる部分がゴムでできてっから締め付けられて痛いってのがあんまない」
陽介だって使ったわけじゃないから、商品知識としてしかしらないが、せめてもの手助けになるならと説明してみる。
「んで、こっちは耳の後ろのガードががっちりしてて、こっちは後ろ側のガードはなくて洗いやすい」
「へー、凄いな陽介」
「こう言うことなら任せとけって」
普段、孝介の役に立つことが少ないだけに、ちょっと照れくさくもあるが鼻が高い。
「じゃあ、菜々子、これとこれ、どっちがいい?」
後ろのガードが少ない物を二種類手に取り、孝介が菜々子の前に差し出した。
「うーんとね、こっち!」
「わかった、じゃあそれ買って帰ろう」
「うん!」
新しいシャンプーハットを抱えてレジへ向かう菜々子は嬉しそうだ。
「しっかし、懐かしいよなーシャンプーハット。ちっちゃい頃はあれないと風呂にも入れ……あー……」
二人とのやり取りですっかり忘れていた。もうすぐ上がりの時間だし、夕飯は買って帰るとして。
「どうすっかな」
ちらり、と孝介の顔を見る。ここはもしかして、チャンス到来なのか?
「あのさ」
「ん?」
口が渇く。飲み込む物もないのに喉がなる。
「その、今日さ」
「おにいちゃーん! はやくー!」
「あ、うん今行く」
意を決して口を開いた瞬間、レジから菜々子の声がしてそれを遮った。
「悪い陽介、ちょっと待って買ってくるから」
「お、おう」
ダハーッと力が抜ける。別に『今夜風呂かしてくれ』ぐらい大した話じゃないのに、やけに緊張するのは、孝介の風呂上りの濡れた肌も見れるんじゃないかと期待するから。
それでも、こんなチャンスめったにない。気を取り直して大きく息を吸い込んだ。
「ごめん陽介、なんだった?」
「いや、実はさ。俺んちの風呂壊れちまって」
緊張の余り早口になってるのがバレてないだろうか。ドキドキと高鳴る胸の音も聞こえてないだろうか。
「ようすけお兄ちゃん、お風呂入れないの?」
「そうなんだよー」
孝介を直視できずに菜々子の視線に降りる。
ちょっとの沈黙が凄く長く感じる。
「何だ、そういうことならはやくいえよ。いいよ」
「え」
緊張がピークに達しかけた時、待っていた一言が耳に届いた。
「菜々子、ようすけお兄ちゃんが今日お風呂入りにくるって」
思わず小さくガッツボーズをとってしまって、慌てて掌を開いてすり合わせる。恐る恐る孝介を見ると、菜々子の頭を撫でていて、気がついてないみたいだ。
「ほんと?! じゃあ、菜々子と一緒に入る?」
「や、それは……堂島さんが怖い」
「なんで? お父さんやさしいよ?」
それは菜々子には優しいだろうが……大事なひとり娘が、まだ小さいとはいえ、家族でもない男と風呂に入ったなんて聞いたらどんな事になるか……。
「じゃあ、お兄ちゃんと入る?」
「んぁ?!」
「菜々子?!」
想像だにしない提案を――本当のところ想像したことは多々あるが――さらりとされて、陽介は慄いた。それは孝介も同じだったようで、慌てて菜々子の前にしゃがみ込んだ。
「あのな? お兄ちゃんたちは高校生なんだから一人で入れるぞ?」
「でも、ようすけお兄ちゃんお風呂入れないっていったよ?」
訳のわからないことを言われて、二人顔を見合わせる。が、すぐに陽介はさっき菜々子にきかれて『そうだ』と答えたのを思い出す。
「あー、あれか。ごめん菜々子ちゃん、そう言う意味じゃなくて、家のお風呂が壊れちゃったから今夜お風呂に入ることが出来ないだけなんだ。でも、菜々子ちゃんちでお風呂を貸してくれるなら、一人で入れるから大丈夫だよ」
二人で入るならそれはもうこの世の天国だが。さすがにそれは口に出せない。
「そうなの? でもみっちゃんがあそびに来たとき、お父さんいっしょに入りなさいって言うよ?」
「えーっと……」
これは喜んでいいのか? のっかっちゃっていいのか? 余りな事態に陽介の頭はヒートアップしていく。ここはもう一か八かだ!
「じゃあ、一緒にはい――」
「菜々子、遅くなるから帰るぞ」
意を決して孝介に笑顔で提案しようと口を開いたとたん、大きな声で遮られた。
「ようすけお兄ちゃんは?」
「今日はこないって」
「え、おい、ちょっと、マジで?!」
ヤバイ調子に乗りすぎた。これでは本末転倒じゃないか。
「ウソウソウソ、一人で入るから! たのみます、神様仏様孝介様!」
菜々子の手をとって歩きはじめた背中に、必死に訴える。何とか止まってくれた孝介の腕にすがりつく。
「――勝手にしろ」
小さく振り払った孝介の目の端が、僅かに紅潮していたことにそこで初めて気が付いた。
「もしかして、あいつ、テレてんの……か?」
だとしたら、さっきの菜々子の提案が叶う日もそう遠くないかもしれない。