【企画 花主】花村かわいい。
せっかくのハロウィンだし! ってことで無理矢理更新。
出来栄えはまあ……どうかなーと思わなくもないですが。リハビリ兼ねてUpしちゃいます!
ちなみにタイトルはふるやさんことなっちゃん作。
と言うか、花村苛めるよーと言ったら『孝介さんで?』と返していただいたので、孝介さん(なっちゃんの言うところのうちの主ですが、たぶんに彼女の中で美化されてる気がします)で苛めてみました。
そんな訳で、花主なんですけどー、気持ちは。主花に見えるのはいつものこと。
あ、でもいわゆるノーマル話なのか、これ。
そんなでも良いよーという心の広い方のみどうぞ!
*****
「トリックオアトリート!」
チャイムの音で玄関のドアを開けるとちびっ子魔女が現れた。
「菜々子ちゃん? どうしたのそのカッコ」
可愛らしい三角帽に背中の中ほどまでの短いマント、その中には裾のところを絞って膨らませたオレンジ色のワンピース。
どこかで見たと思ったら、ジュネスの特設売り場に並んでいたハロウィンの仮装セットだ。
「トリックオアトリート!」
「ああ、今日ハロウィンだっけか」
そう言えば夕方、孝介がジュネスで何やら買い物をしていたのを見かけた。いつものように日用品のそれかと思って気にも止めていなかったのだが、今思えばあれはこのイベントの為の準備だったのだろう。その証拠に菜々子の後ろに控える孝介も、海賊映画の主人公のようなカッコをしている。
「あのね、ハロウィンっていたずらしてもいい日なんだよ? よーすけお兄ちゃんしってた?」
嬉しそうに話す菜々子に、陽介は自然笑みが漏れた。
「それは、ちょっと違うとお兄ちゃん思うぞ?」
「そうなの?」
菜々子の言い方が余りに余りだったせいか、苦笑を浮べた孝介が訂正を入れる。が、小さい子に――と言うか花村自身も――詳しい風習を理解できるはずもない。
「いいんじゃね? それで。つまり、菜々子ちゃんは俺がお菓子あげたらいたずらできないんだよな」
「トリックオアトリート!」
菜々子のように可愛らしい子にされる悪戯なら、甘んじて受けても良いのだが、ここはやっぱりお菓子だろう。
「んー……なんかあったけ? ちと探してくるから待ってて」
「わるいな」
「いーっていーって」
陽介は踵を返してキッチンへと向かった。スナック菓子の類はちょうど切らしてて、買い物に出かけようかと思っていたところだったし、それ以外の物と言うとと、考えながら物色する。
「確か、今日なんか作ってたと思ったんだけど……」
昼間母親がオーブンを弄っていたのを見かけたから、おそらく菓子の類であるとあたりをつけ棚に手を伸ばした。
「お、あったあった」
出てきたのはおりしもかぼちゃのクッキー。これならハロウィンにもぴったりだし、手作りなので余分なものも入ってないから安全だ。
(俺的には油断ならねェけどな)
ちょっとした切っ掛けで豆腐を料理に混ぜ込むことに目覚めてしまった母親の手作り菓子は、危険度が高すぎて陽介には口にできた物ではない。二重の意味で渡りに船な菓子を手に入れて、陽介は意気揚々と玄関に戻った。
「おまたせ。はい菜々子ちゃん」
「うわー! クッキーだ!! よーすけお兄ちゃんありがとう!」
「いやいや、なんのなんの」
可愛らしい包装とかは出来なかったが、喜んで貰えてひと安心だ。
「これ、もしかしておばさんの手作りか?」
「ん? そう。今日作ったばっかだし、料理はまあマシだから美味いと思うぜ?」
「へー、さすが凄いな――、って何?」
陽介のぶしつけな視線に気づいたのか、孝介が菜々子の手にあるクッキーから顔をあげた。
「いや、その衣裳、どっから持って来たんかと思って。さすがにジュネスにそれは売ってねェだろ?」
「ああ、これ? 演劇部から借りてきたんだ」
「なーる」
確かにあそこならこの手の衣裳に困ることはない。とは言っても子供用のそれはないから、菜々子はジュネスなのかと納得がいった。
「ところで、おれの分は?」
「は? 何が?」
少し骨ばった掌が陽介に向けて伸ばされる。
「Trick or treat. 」
「え、マジで?」
クッキーはさっき菜々子にやった分で全部だ。と言うか孝介からも要求されるとは思いもよらず、陽介は慌てふためく。
「菜々子ちゃんにやったじゃん」
「それはそれ、おれのはおれの」
「ンなのありかよ!?」
「へー……くれないんだ?」
一歩、また一歩と迫ってくる孝介に、知らず腰が引ける。
「ンなこと言ったって、もうねェンだから仕方なねェだろ!」
「じゃあ、いたずらだな」
「いたずらするの?」
ふたりのやり取りを今まで黙って見つめていた菜々子まできらりと目を光らせた。二つの期待に満ちた眼差しに晒されて、陽介はズリズリと後ずさるしかない。気のせいか、背中に冷たいものが流れているような気もする。
「何されるんですか、俺」
「何されるんでしょうねぇ」
「でしょうねぇ」
嬉しそうに笑う二人の顔がこんなに恐ろしいと思ったことはない。
「お前ら……さすが従兄妹だよ! そっくりだよ!!」
「ほんと? 菜々子、お兄ちゃんににてる?」
「良かったな、菜々子」
「うん!」
(無邪気に微笑まれても喜べねぇっ!)
これ以上恐怖で目が開けてられず、陽介がぎゅっと目をつぶったのと同時に、顔にガサリと何かが押し付けられた。
驚いて目を開けると、そこには大きめの紙袋。
「なにこれ?」
「花村用の衣裳」
「はい?!」
勢いで受け取ってしまった紙袋を開けてみる。出てきたのは――。
「ナースって何?!」
「それしかなくってさ」
「だからってなんでナース!! ンなのもう仮装じゃねぇだろ! コスプレだろ!! お前が着ろよ!!」
昨日の女装コンテストで傷ついた心に沁みる衣裳を平然と出されて、陽介は不覚にも涙が出る。
「嫌に決まってるだろ? って言うか、そもそもこれいたずらだし。お菓子くれない花村が悪い」
「うぅっ……」
そんなことを言われても、ミニスカナースはハードルが高すぎる。こうなってくると昨日の制服なんてまだまだマシだったと改めて思わされ、殆ど罰ゲームな衣裳と孝介の顔を代わる代わるに見つめながら、どうしたものかと途方にくれるしかない。
と、陽介の袖を菜々子がちょんと引っ張った。
「あのね、きのうお兄ちゃんたちの学校でお祭りあったでしょ? 菜々子もお祭りしたいなって言ったら、お兄ちゃんがハロウィンって言うお祭りがあるっておしえてくれたの」
「菜々子ちゃん……」
「だから、よーすけお兄ちゃんもいっしょにお祭りできたら嬉しいなって」
これはもう、逃げ道はなくなった。こんな菜々子を袖になどできるものか。
「っしゃ! 花村陽介ナースさせて貰います!! ちょっと待ってて菜々子ちゃん!」
「うん!」
街で明日どんな噂が流れるかわかったものじゃないが、ここはもう腹をくくるしかない。さすがに菜々子の前で着替えるわけにはいかないので、居間に急いで駆け込むと、着ていた衣服を脱ぎ捨ててナース服に袖を通した。おりしも剃り立ての足はつるつるとまではいかないが、まあ、何とかなる範囲だ。
けれど、鏡で己を見るのは恐ろしく、そのまま勢いで玄関へと踏み出した。
「――花村」
「いーって、わかったから。でもこの仮はでかいぞ?」
「や、そうじゃなくて」
「じゃ、なんだよ」
さっきとはまた違う、透き通るようなきらきらとした目が陽介を見つめる。
「よーすけお兄ちゃん……」
「花村……」
「「かわいい!」」
痛恨の一撃。
「くっそ、覚えてろよ!!!」
と、叫んでみたものの。この従兄妹に勝てる気が全くしない花村だった。
出来栄えはまあ……どうかなーと思わなくもないですが。リハビリ兼ねてUpしちゃいます!
ちなみにタイトルはふるやさんことなっちゃん作。
と言うか、花村苛めるよーと言ったら『孝介さんで?』と返していただいたので、孝介さん(なっちゃんの言うところのうちの主ですが、たぶんに彼女の中で美化されてる気がします)で苛めてみました。
そんな訳で、花主なんですけどー、気持ちは。主花に見えるのはいつものこと。
あ、でもいわゆるノーマル話なのか、これ。
そんなでも良いよーという心の広い方のみどうぞ!
*****
「トリックオアトリート!」
チャイムの音で玄関のドアを開けるとちびっ子魔女が現れた。
「菜々子ちゃん? どうしたのそのカッコ」
可愛らしい三角帽に背中の中ほどまでの短いマント、その中には裾のところを絞って膨らませたオレンジ色のワンピース。
どこかで見たと思ったら、ジュネスの特設売り場に並んでいたハロウィンの仮装セットだ。
「トリックオアトリート!」
「ああ、今日ハロウィンだっけか」
そう言えば夕方、孝介がジュネスで何やら買い物をしていたのを見かけた。いつものように日用品のそれかと思って気にも止めていなかったのだが、今思えばあれはこのイベントの為の準備だったのだろう。その証拠に菜々子の後ろに控える孝介も、海賊映画の主人公のようなカッコをしている。
「あのね、ハロウィンっていたずらしてもいい日なんだよ? よーすけお兄ちゃんしってた?」
嬉しそうに話す菜々子に、陽介は自然笑みが漏れた。
「それは、ちょっと違うとお兄ちゃん思うぞ?」
「そうなの?」
菜々子の言い方が余りに余りだったせいか、苦笑を浮べた孝介が訂正を入れる。が、小さい子に――と言うか花村自身も――詳しい風習を理解できるはずもない。
「いいんじゃね? それで。つまり、菜々子ちゃんは俺がお菓子あげたらいたずらできないんだよな」
「トリックオアトリート!」
菜々子のように可愛らしい子にされる悪戯なら、甘んじて受けても良いのだが、ここはやっぱりお菓子だろう。
「んー……なんかあったけ? ちと探してくるから待ってて」
「わるいな」
「いーっていーって」
陽介は踵を返してキッチンへと向かった。スナック菓子の類はちょうど切らしてて、買い物に出かけようかと思っていたところだったし、それ以外の物と言うとと、考えながら物色する。
「確か、今日なんか作ってたと思ったんだけど……」
昼間母親がオーブンを弄っていたのを見かけたから、おそらく菓子の類であるとあたりをつけ棚に手を伸ばした。
「お、あったあった」
出てきたのはおりしもかぼちゃのクッキー。これならハロウィンにもぴったりだし、手作りなので余分なものも入ってないから安全だ。
(俺的には油断ならねェけどな)
ちょっとした切っ掛けで豆腐を料理に混ぜ込むことに目覚めてしまった母親の手作り菓子は、危険度が高すぎて陽介には口にできた物ではない。二重の意味で渡りに船な菓子を手に入れて、陽介は意気揚々と玄関に戻った。
「おまたせ。はい菜々子ちゃん」
「うわー! クッキーだ!! よーすけお兄ちゃんありがとう!」
「いやいや、なんのなんの」
可愛らしい包装とかは出来なかったが、喜んで貰えてひと安心だ。
「これ、もしかしておばさんの手作りか?」
「ん? そう。今日作ったばっかだし、料理はまあマシだから美味いと思うぜ?」
「へー、さすが凄いな――、って何?」
陽介のぶしつけな視線に気づいたのか、孝介が菜々子の手にあるクッキーから顔をあげた。
「いや、その衣裳、どっから持って来たんかと思って。さすがにジュネスにそれは売ってねェだろ?」
「ああ、これ? 演劇部から借りてきたんだ」
「なーる」
確かにあそこならこの手の衣裳に困ることはない。とは言っても子供用のそれはないから、菜々子はジュネスなのかと納得がいった。
「ところで、おれの分は?」
「は? 何が?」
少し骨ばった掌が陽介に向けて伸ばされる。
「Trick or treat. 」
「え、マジで?」
クッキーはさっき菜々子にやった分で全部だ。と言うか孝介からも要求されるとは思いもよらず、陽介は慌てふためく。
「菜々子ちゃんにやったじゃん」
「それはそれ、おれのはおれの」
「ンなのありかよ!?」
「へー……くれないんだ?」
一歩、また一歩と迫ってくる孝介に、知らず腰が引ける。
「ンなこと言ったって、もうねェンだから仕方なねェだろ!」
「じゃあ、いたずらだな」
「いたずらするの?」
ふたりのやり取りを今まで黙って見つめていた菜々子まできらりと目を光らせた。二つの期待に満ちた眼差しに晒されて、陽介はズリズリと後ずさるしかない。気のせいか、背中に冷たいものが流れているような気もする。
「何されるんですか、俺」
「何されるんでしょうねぇ」
「でしょうねぇ」
嬉しそうに笑う二人の顔がこんなに恐ろしいと思ったことはない。
「お前ら……さすが従兄妹だよ! そっくりだよ!!」
「ほんと? 菜々子、お兄ちゃんににてる?」
「良かったな、菜々子」
「うん!」
(無邪気に微笑まれても喜べねぇっ!)
これ以上恐怖で目が開けてられず、陽介がぎゅっと目をつぶったのと同時に、顔にガサリと何かが押し付けられた。
驚いて目を開けると、そこには大きめの紙袋。
「なにこれ?」
「花村用の衣裳」
「はい?!」
勢いで受け取ってしまった紙袋を開けてみる。出てきたのは――。
「ナースって何?!」
「それしかなくってさ」
「だからってなんでナース!! ンなのもう仮装じゃねぇだろ! コスプレだろ!! お前が着ろよ!!」
昨日の女装コンテストで傷ついた心に沁みる衣裳を平然と出されて、陽介は不覚にも涙が出る。
「嫌に決まってるだろ? って言うか、そもそもこれいたずらだし。お菓子くれない花村が悪い」
「うぅっ……」
そんなことを言われても、ミニスカナースはハードルが高すぎる。こうなってくると昨日の制服なんてまだまだマシだったと改めて思わされ、殆ど罰ゲームな衣裳と孝介の顔を代わる代わるに見つめながら、どうしたものかと途方にくれるしかない。
と、陽介の袖を菜々子がちょんと引っ張った。
「あのね、きのうお兄ちゃんたちの学校でお祭りあったでしょ? 菜々子もお祭りしたいなって言ったら、お兄ちゃんがハロウィンって言うお祭りがあるっておしえてくれたの」
「菜々子ちゃん……」
「だから、よーすけお兄ちゃんもいっしょにお祭りできたら嬉しいなって」
これはもう、逃げ道はなくなった。こんな菜々子を袖になどできるものか。
「っしゃ! 花村陽介ナースさせて貰います!! ちょっと待ってて菜々子ちゃん!」
「うん!」
街で明日どんな噂が流れるかわかったものじゃないが、ここはもう腹をくくるしかない。さすがに菜々子の前で着替えるわけにはいかないので、居間に急いで駆け込むと、着ていた衣服を脱ぎ捨ててナース服に袖を通した。おりしも剃り立ての足はつるつるとまではいかないが、まあ、何とかなる範囲だ。
けれど、鏡で己を見るのは恐ろしく、そのまま勢いで玄関へと踏み出した。
「――花村」
「いーって、わかったから。でもこの仮はでかいぞ?」
「や、そうじゃなくて」
「じゃ、なんだよ」
さっきとはまた違う、透き通るようなきらきらとした目が陽介を見つめる。
「よーすけお兄ちゃん……」
「花村……」
「「かわいい!」」
痛恨の一撃。
「くっそ、覚えてろよ!!!」
と、叫んでみたものの。この従兄妹に勝てる気が全くしない花村だった。
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