医師 転職> サプリメント
<<  やっと一息。 | main |  何ヶ月ぶりなのか。 >>

 【企画 花主】お姫様抱っこ

変り種 選択課題・ラブラブな二人へ * お題配布元 >> リライト様

花主仲間でお友達でもあるまやさんとの共同企画、これにてとりあえず終了です。

個人的に花主絶賛ラブラブ絶好調期間だと思っている文化祭の話になってますので、文化祭のネタバレ有です。
(微妙に本来のシチュと違う部分があります。寛大な心でお願いします)

とは言ってもラブ度は低いかなぁ。
ホントはもうちょっと書きたいことがあったんですが、それはまた後日にでも。
他の形になるか、続きでUPするかはわかりませんが;;

とりあえず、花村視点……かな?




*****


「花村早いな、もう着替えたのか」

思いっきりネタ扱いの女装コンテストが終わり、すぐさま陽介は更衣室代わりの教室に逃げ戻った。
千枝の腕が良かったのか悪かったのか、陽介の女装の出来栄えはある意味最高で、ギャラリーには嬉しくも悲しい悲鳴をたくさん頂戴した。それはそれ、ガッカリ王子の面目躍如ってところだろうが、実際問題これ以上一秒だってこんなみっともない姿を晒していたくはない。それでも教室に帰る途中、何人もの生徒や一般客に散々弄られまくり――それに一々リアクションを取り――もう色々限界だった。

尤も一番嫌だったのは、孝介にそれを見られる事で。

幸いな事に、仕度が出来てから慌しくステージに上げられたせいで、お互いの女装姿をまじまじと見る事はなかった。つまりはコンテストが終わった後を上手くやり過ごしさえすれば何とかなる。運よく孝介がなんだかんだと引き止められている隙をついて、陽介はほうほうの体で体育館を抜け出してきたのだ。

「お、おう、お前も早く着替えちま……ぇ……」

何とか仕度を整えて――勿論メイクもしっかり洗い流し――教室から出てすぐ、聞き慣れた声で呼びかけられて陽介が振り返ると。

「そうだな」

そこには美少女が立っていた。
いや、少女と言うには些か育ちすぎか。けれど、美人のそれには違いない。

どこから探してきたのか、およそ小さいとは言えない男子にぴったりサイズの女子の制服。陽介のそれとは違い、纏わりつくほど長いスカートから僅かに覗く足首。
地毛とほぼ変わらない色のウィッグを緩く編んで左右に垂らしたその顔は、ファンデーションのせいか、いつもより更に色素が薄い。吸い寄せられるように目を向けると、普段は髪に隠れて余り見えない目元には綺麗なラインが引かれ、長い睫がその周りを飾っていた。

そして極めつけはほんのりと紅い唇。

自然、ごくりと喉が鳴った。

「花村?」

孝介といわゆる恋人の関係になってからこっち、特に『孝介が女だったら』とか考えた事もなかったが、こう言う姿を見せられると、男として色々考える事もある。
いや、逆に女でなかったから今の自分達があるのかも知れないが。

「何だよ、美人過ぎて声も出ないか?」

まじまじと孝介を眺めながら何を言うでもない陽介に焦れたのか、孝介が本気とも冗談ともつかない台詞を吐く。一瞬言葉の意味がわからず、きょとんとした顔で受け止めた陽介は、すぐに苦笑で返した。

「なんかお前色々スゲーわ」
「何だよ」
「飛び入り無かったらコンテスト優勝だったんじゃね?」

クマのアレは色々反則なのだから、それを抜きにすれば、完二は問題外だし陽介だってそう。とすれば当然残るは一人しかいない。

(つか、里中もやるなら完二ぐらい突き抜けてくれればネタとして盛り上がったかもしれねェのによ)

返す返すも微妙な作りの自分が居た堪れず、暴れだしたくなる。だと言うのに。

「そうか? お前もなかなか……」
「や、そういうのいらないから。つか、思い出さなくていいから! 記憶から抹消してください、お願いします!」

孝介の記憶に残らないように必死に逃げてきたのだから、思い返されては困る。両の手を額の所で合わせ拝むようにして頼む陽介の姿を見て、孝介はくくっと喉の奥で笑った。

「――――っ!」

孝介にしてみれば、そんな陽介が滑稽だったからに他ならないだろうが、無防備に笑顔を見せないで欲しい。ふざけて誤魔化していたが、さっきから陽介の心臓はかなり良い勢いで暴れていて、ここが校内でなかったらどんな事になっていたか、想像するのも恐ろしい。
けれど、紅くなる顔は誤魔化しきれず。クスクス笑いだった孝介の笑みが、徐々に違ったものになる。

「何? 惚れ直した?」

手にしていた竹刀を廊下の壁に立てかけて、孝介がしなだれ掛かってきた。右手を首の後ろに回されて、ゾクゾクと何かがかけあがってくる。

「ちょ、おま、こんなトコで……やめろって」

当然ここは文化祭で賑わった校内で。二人がいる廊下もけして無人ではない。それどころか、遠巻きに面白がって眺めてる連中までいる有様だ。
それだと言うのに。

「こんなトコじゃなかったら?」

耳に息が吹きかかるほど近くでそんな事を囁かれて。悪戯にも程があるだろう。

「っ! お前なぁ!」
「あーっ! よーすけお兄ちゃんだ!」
「……菜々……子、ちゃん」

すり寄せんばかりに近付いていた孝介の額を掌で必死に押し返したのとほぼ同時に、前方から菜々子が堂島と一緒に姿を現した。
これにはさすがの孝介も氷つき、さっきまでの勢いはどこへやら、陽介の肩にうずめるように顔を伏せる。

「やっと会えた! お父さんと二人でお兄ちゃんたちさがしたんだけど、ぜんぜん見つからないんだもん。高校って広いんだね」
「そう……だね」

屈託無く話しかけて来る菜々子に、陽介は困ってしまった。どうやらこの腕の中で小さくなっている人物は、従妹と顔を合わせる気はないらしい。
菜々子は菜々子で、まさか目の前にいる女子生徒が孝介であるなどと気づきもせず、きょろきょろと陽介の周りを見回した。

「ねえ、お兄ちゃんは?」
「え?! あー……えっと……」

陽介の腕を掴んでいた孝介の手にギュッと力が入る。同じくギュッと目を瞑っているのを目の端で確認し、返す刀で菜々子の後の堂島を伺うと、さすが刑事、どうやら全てを理解しているようで無精ひげを弄りながら苦笑していた。一瞬助け舟を求めようとも思ったが、とりあえずここさえやり過ごして孝介に着替えをさせればさしたる問題ではない。

「その、ちょっとトイレ行ってるんだ。俺が呼んでくるから菜々子ちゃんはここで待ってて?」
「うん!」

元気の良い返事にほっと息を吐く。そして、踵を返してトイレに行こうとした陽介を、孝介がぐっと引きとめた。

「置いていくなよ」

陽介にしか聞こえない声で訴えられ、顔を寄せる。

「お前も一緒に来るんだよ」
「菜々子の前で、このカッコのまま男子トイレに入れるわけ無いだろう」
「んなこと言ったって……んじゃ、知らん振りして教室入っちまえ」
「そんなわけに行くかよ」
「大丈夫だって、堂島さんはともかく菜々子ちゃんは気づいてねェから」
「そう、かもしれないけど……」
「ねえ」

こそこそと話していると菜々子の声が至近距離で聞こえ、二人は飛び上がらんばかりに驚いた。

「おねえちゃんぐあいわるいの?」

良く考えなくても、さっきから女生徒が陽介にベッタリもたれかかっているのだから、菜々子が不審に思わない方がおかしい。

「あー、うん、そう。気持ち悪ぃらしくてさ、ッテテ」

その場しのぎに適当なことを言うと、孝介が上目遣いに陽介を睨み『余計な事言うな』と左足を踏みつけてきた。その痛みに耐えつつ、だったらこの場合どうすりゃ良いのよと、陽介はため息混じりに天を仰ぐ。その隙をつくようにして、菜々子が孝介の側に寄ってきた。

「だいじょうぶ?」

心配そうな顔が覗き込んできたので、慌てて孝介は元のように陽介の肩に顔をうずめる。ただし、大丈夫とばかりにコクコクと首を縦に振るのを忘れないのはさすがだ。

「ごめん菜々子ちゃん。俺、ちょっとこいつ保健室に連れて行ってくるわ。あいつもすぐ戻ってくると思うから、お父さんと二人で待っててくれっかな?」

いい加減誤魔化すのも限界だし、上手い具合に口実も出来た。とりあえずは保健室に移動して、後で着替えを持ってきてやれば良い。そう思ってとにかく菜々子から孝介を引き離すように腕に抱え込んで体をよじる。同時に腕の中の孝介が僅かに力を抜いた。

「うん。菜々子まってる。だからおねえちゃん早くつれてってあげて?」
「ああ、ありがと、な」

菜々子にお礼を言いながら目配せをすると、苦笑したまま成り行きを見守っていた堂島は頷き、二人を追い払うようにヒラヒラと手を振ってよこす。それにぺこりと頭を下げながら、孝介に肩を貸すような形で保健室へと歩き出した。が、いつもの身長差ならさほど辛く無いその動作が、孝介が体を縮めているせいで、やけに動き辛い。

「だめだよ、よーすけお兄ちゃん。おねえちゃんぐあいわるいんだから、だっこしてあげないと」
「え」

のろのろとやっとの事で歩いて行く二人を見て、菜々子がした提案の恐ろしさに、思わず動きが止まる。

「だっこ……って」
「うん! おひめさまみたいに! お父さんもお兄ちゃんも菜々子がぐあいわるいときはそうしてくれるよ? ね、お父さん」
「ぶ、っく、あ、ああ、そうだな」

あっさりと返事をした堂島は、もう我慢の限界だと言わんばかりに必死に笑いをこらえている。いや、こらえきれていない。けれど、そんな事は気にもせず、菜々子はじっと陽介たちを見つめていた。その無垢な視線にどうにも陽介は逆らうことが出来そうにない。

「そうだな、わかった」
「え、ちょっと!」

覚悟を決めて腰に力を入れ、驚く孝介の膝裏に腕を滑り込ませると、思い切り勢い良くその体を持ち上げた。さすがに本当の女生徒のように軽々とは行かないが、何とか菜々子の言う『お姫様みたいなだっこ』の体をとる。

「花村、おい」
「いいから、顔伏せて首にしっかり掴まってくれ。さすがに暴れられるとキツイ」

そんな様子を物見高く見ていた他の生徒達が、面白全部に囃し立てるのも手伝って、孝介は言われるままおとなしく陽介の首にしがみついた。体勢が安定した所で、改めて保健室へと歩き始める。

「おねえちゃん、早く元気になるといいね」

今度こそ安心した菜々子が嬉しそうに堂島に声をかけるのを聞いて、二人はすぐにでも崩れ落ちてしまいたくなった。


*


後日。
陽介と女装孝介の微笑ましい(?)噂話が校内中を駆け巡ったのは言うまでも無い。







Comments

Comment Form

Remember Me?