【堂主】出会いはナンパ
* 年の差カップルに5題 * お題配布元 >> sai-480様
初書きぺよんです。
キャラクターが掴めてると良いのだけれど……。
主人公視点は難しすぎたので、堂島さん視点で。
足立と花村もちらりと登場してます。
エロはありませーん! でも堂主と言い張る。
*****
それを見かけたのは本当に偶然だった。
そもそも自分がこの沖奈に来ること自体、そんなにあることじゃない。あったとしてもそれがこの時間になることも、ましてや駅前に来るなどということもほぼ無いに等しい程。
「堂島さーん、何やってんですか、早く行きましょうよ」
驚きで立ちすくんでいた堂島を、やる気のあるんだか無いんだかはっきりしない口調で足立が呼んだ。その声に、先ほどから堂島を驚かせていた少年がこちらを振り返る。
「遼太郎さん?」
月森孝介。堂島の姉夫婦の一人息子だ。
姉夫婦の仕事の関係で一年だけ預かる事になったこの少年は、高校二年と言う年頃に似合わない『できた子供』だった。
自分の娘である菜々子に同じ物を背負わせている実感があっただけに、菜々子がそのまま成長したような、まるで色を持たない少年が自分の目の前に立っていたあの春を、堂島が忘れることは無いだろう。
「おう、買い物か?」
「……まあ、そんなとこ。遼太郎さんは? 事件?」
それでも『家族』として生活するうちにぎこちなさも徐々になくなり、彼のおかげで菜々子がよく笑うようになった。『お兄ちゃんお兄ちゃん』と後をついて歩く姿に堂島の胸は締め付けられる。
堂島家に欠けていたピースが填って行く感覚。
「いや、ちょっと所轄に用事があってな」
「そうなんだ」
填めてはいけないピースなのに。
「堂島さん! ったく、早く帰らないとまた怒られちゃいますよ? ってあれ?」
いつまでも動かない堂島に痺れを切らしたのか、足立が戻ってきた。そして孝介の顔をまじまじとみつめる。
「君、確か堂島さんとこの……えーっと」
「孝介」
「そうそう、孝介くん。偶然だねー。何々? デート? 良いなぁ、高校生は」
「違います、足立さんみたいにもてないんで」
「うっわ、何それ嫌味?」
「足立、いい加減にしないか」
高校生相手に絡んでみっともない。そう窘める堂島に、足立がしぶしぶ黙った。
けれど、確かにこのくらいの年頃なら彼女の一人や二人いても ― いや、二人いたら問題か ― 不思議はない。実際堂島が知るだけでも天城屋旅館の娘に始まり、アイドル久慈川りせなど ― 堂島にしてみればまだまだ子供だが ― 魅力的な女性ばかりが彼の周りに集まっていた。足立がやっかみたくもなるのもわからないではない。
「菜々子はどうした」
「友達と遊ぶって出かけた。夕方には帰ってくると思うけど」
「そうか、俺も今日は早く帰れそうだから、飯食いにでも行くか?」
「ほんと? 菜々子喜ぶよ」
ふっと孝介の顔が和らぐ。その顔に堂島もつられて笑顔になった。
「菜々子だけか?」
「え?」
こういう顔をいつもしていればいいのにと堂島は思う。余り表情の変わらない甥っ子の、孝介の笑顔を見たいと思うのは、いけない事ではないはずだ。
そう自分に言い聞かせて、無骨な大きい手で幾分色素の薄い孝介の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「ちょ、遼太郎さん?」
「何でもねぇよ、お前も早く帰ってこい」
『な』と手を頭の上において、小さい子供相手のように顔を覗き込む。そして孝介が驚いた顔をして頷くのを確認すると、ポンッとひとつ叩いてから手を離した。
「じゃあ、な。行くぞ足立」
「あ、堂島さんちょっと!」
「おーい、月森ーっ!」
「花村?」
堂島がきびすを返したのとほぼ同時に孝介にかかった声には覚えがある。自然とまた堂島の足が止まり、声のした方を振り返った。
「おま、んなとこでなにやってんだよ。お前いねぇと話にならねぇって、あいつら怒ってんぞ」
「別に、花村がいればいいじゃないか」
「あのな、俺だってヤダってのこんなの。てか、こんなことなら来てねぇよ! お前も逃げんな」
「逃げてないって。わかった、わかったから離れろ。重いだろ」
全体重をかけるように抱きつく花村を、孝介がうっとうしそうに、それでもちょっと楽しそうに押し返す。しかしそれは花村の抵抗にあって思うように剥がれない。もがく孝介と離れまいとする花村。堂島がぼんやりとそれを見ているうちに孝介の肩越しに花村と目が合った。
「あれ? 堂島さん?」
「お、おう、ジュネスの息子。お前も一緒だったんだな」
「ジュネッ! ……はぁ……ま、いーっすけど」
「花村だよ遼太郎さん」
堂島の返答にがっくりとうなだれた花村の頭を撫でながら、孝介が正す。
「月森ぃー……」
「はいはい、わかったわかった」
仲良くじゃれる二人に、先ほど言い聞かせたはずの胸が疼く。
『お前ら!! いい加減にしろよ!!』
「おー、わりぃわりぃ! ほら、行こうぜ月森。んじゃ、堂島さん失礼します!」
「あ、おい花村?」
身体こそ孝介から離したものの、その手を繋いだまま花村は他の友達のところへ歩き出す。引きずられるようにしてその場を離れた孝介が連れて行かれる先には、彼らの友人たちと現れた二人の姿を見てきゃあきゃあ喜ぶ女ども。
「ナンパっすかね、あれ。高校生の癖になっまいきー」
二人が合流したとたん、その腕に細い腕が絡み、ことさら胸を押し付けるようにして身体を寄せる。
「ガキが、何色気づいてんだ」
「やーあのくらいならあんなの普通っすよ」
さっき生意気と言った口でそれと正反対のことを足立が言う。事も無げな口調が堂島のカンに触ったのにも気づかず、足立は更に言葉を続けた。
「良いなぁ、混ぜてもらおうかなー」
「……足立」
「嘘々、冗談ですって」
そんな怖い顔で睨むなと言われ、そこで始めて堂島は自分の眉間に深い皺が刻まれていることに気づいた。その原因が足立の軽口に対するものでないことはわかる。わかるが認めたくはない。
「…………行くぞ」
「え、あ、堂島さん?! 待ってくださいよー」
いつまでも胸糞悪いものを見ているのが嫌で、今度こそ堂島は向きを変え稲羽に帰るべく歩を進め始めた。それを慌てて足立が追いかける。
「堂島さん、堂島さんってば!! 勘弁してくださいよぉ」
「うるさい、てめぇのせいですっかり遅くなっちまったじゃねぇか。さっさと帰るぞ」
「ええー、遅くなったのは堂島さんが悪いんじゃ……」
「あぁ?」
「……ってなんでもないっす」
文句を言う足立をひと睨みで黙らせて、駅に隣接している駐車場まで戻り、車の扉を開けようとした時。
「りょ、遼太郎さん……!」
さっき別れたはずの孝介が息を切らせて追いかけてきた。
「なんだ」
「……、お、……れ、も、帰ろう、と思って」
「帰るって、友達はどうした。それにまだ帰るような時間じゃないぞ」
いくら沖奈から稲羽までが時間かかるとは言っても、菜々子が帰るであろう夕方まではまだ大分ある。
「いいんだ。もう用は済んだし」
「済んだってお前……」
おそらくナンパの成功要員として花村共々呼び出されたに違いないが、その要が抜けてしまって成り立つのだろうか。
「稲羽まで帰るんでしょ? 一緒に乗せてってくれないかな」
「そりゃ、まぁ構わねぇが」
良くはわからないが、堂島たちが稲羽に帰るのは確かだ。署に戻ってまだ仕事はあるが、稲羽まで乗せて帰ってやるのはやぶさかではない。
それに―……。
「良かった。足立さん、すみませんお世話になります」
「あー……まあ良いや、堂島さんの機嫌直ったみたいだし」
「足立」
「うぇっ! はははい!」
確かに足立の言う通り、さっきまでのイライラがすっきりしてるのは否めない。
「俺が運転する。お前は後ろに乗れ」
「え?」
「孝介、ちゃんとシートベルト締めろよ?」
「うん」
そういうが早いか足立からキーを奪って運転席へと乗り込む。エンジンをかけてシートベルトを締めると、助手席に孝介が乗り込んできた。
「足立、お前もシートベルトしろ」
「えー……面倒く」
「締めろ。お前自覚が足りないんじゃないか」
「はいはいわかりましたよっと」
ごそごそやる足立を尻目に、孝介に視線を移す。
二人のやり取りを見てくすくすと笑う甥っ子の笑顔にドキリとした。
「行くぞ」
「うん」
「え、ちょっとま」
足立の抗議はまるっと無視して、堂島は高揚する気分を押し殺しながらゆっくりと車を発進させた。
初書きぺよんです。
キャラクターが掴めてると良いのだけれど……。
主人公視点は難しすぎたので、堂島さん視点で。
足立と花村もちらりと登場してます。
エロはありませーん! でも堂主と言い張る。
*****
それを見かけたのは本当に偶然だった。
そもそも自分がこの沖奈に来ること自体、そんなにあることじゃない。あったとしてもそれがこの時間になることも、ましてや駅前に来るなどということもほぼ無いに等しい程。
「堂島さーん、何やってんですか、早く行きましょうよ」
驚きで立ちすくんでいた堂島を、やる気のあるんだか無いんだかはっきりしない口調で足立が呼んだ。その声に、先ほどから堂島を驚かせていた少年がこちらを振り返る。
「遼太郎さん?」
月森孝介。堂島の姉夫婦の一人息子だ。
姉夫婦の仕事の関係で一年だけ預かる事になったこの少年は、高校二年と言う年頃に似合わない『できた子供』だった。
自分の娘である菜々子に同じ物を背負わせている実感があっただけに、菜々子がそのまま成長したような、まるで色を持たない少年が自分の目の前に立っていたあの春を、堂島が忘れることは無いだろう。
「おう、買い物か?」
「……まあ、そんなとこ。遼太郎さんは? 事件?」
それでも『家族』として生活するうちにぎこちなさも徐々になくなり、彼のおかげで菜々子がよく笑うようになった。『お兄ちゃんお兄ちゃん』と後をついて歩く姿に堂島の胸は締め付けられる。
堂島家に欠けていたピースが填って行く感覚。
「いや、ちょっと所轄に用事があってな」
「そうなんだ」
填めてはいけないピースなのに。
「堂島さん! ったく、早く帰らないとまた怒られちゃいますよ? ってあれ?」
いつまでも動かない堂島に痺れを切らしたのか、足立が戻ってきた。そして孝介の顔をまじまじとみつめる。
「君、確か堂島さんとこの……えーっと」
「孝介」
「そうそう、孝介くん。偶然だねー。何々? デート? 良いなぁ、高校生は」
「違います、足立さんみたいにもてないんで」
「うっわ、何それ嫌味?」
「足立、いい加減にしないか」
高校生相手に絡んでみっともない。そう窘める堂島に、足立がしぶしぶ黙った。
けれど、確かにこのくらいの年頃なら彼女の一人や二人いても ― いや、二人いたら問題か ― 不思議はない。実際堂島が知るだけでも天城屋旅館の娘に始まり、アイドル久慈川りせなど ― 堂島にしてみればまだまだ子供だが ― 魅力的な女性ばかりが彼の周りに集まっていた。足立がやっかみたくもなるのもわからないではない。
「菜々子はどうした」
「友達と遊ぶって出かけた。夕方には帰ってくると思うけど」
「そうか、俺も今日は早く帰れそうだから、飯食いにでも行くか?」
「ほんと? 菜々子喜ぶよ」
ふっと孝介の顔が和らぐ。その顔に堂島もつられて笑顔になった。
「菜々子だけか?」
「え?」
こういう顔をいつもしていればいいのにと堂島は思う。余り表情の変わらない甥っ子の、孝介の笑顔を見たいと思うのは、いけない事ではないはずだ。
そう自分に言い聞かせて、無骨な大きい手で幾分色素の薄い孝介の髪をぐしゃぐしゃとかき混ぜる。
「ちょ、遼太郎さん?」
「何でもねぇよ、お前も早く帰ってこい」
『な』と手を頭の上において、小さい子供相手のように顔を覗き込む。そして孝介が驚いた顔をして頷くのを確認すると、ポンッとひとつ叩いてから手を離した。
「じゃあ、な。行くぞ足立」
「あ、堂島さんちょっと!」
「おーい、月森ーっ!」
「花村?」
堂島がきびすを返したのとほぼ同時に孝介にかかった声には覚えがある。自然とまた堂島の足が止まり、声のした方を振り返った。
「おま、んなとこでなにやってんだよ。お前いねぇと話にならねぇって、あいつら怒ってんぞ」
「別に、花村がいればいいじゃないか」
「あのな、俺だってヤダってのこんなの。てか、こんなことなら来てねぇよ! お前も逃げんな」
「逃げてないって。わかった、わかったから離れろ。重いだろ」
全体重をかけるように抱きつく花村を、孝介がうっとうしそうに、それでもちょっと楽しそうに押し返す。しかしそれは花村の抵抗にあって思うように剥がれない。もがく孝介と離れまいとする花村。堂島がぼんやりとそれを見ているうちに孝介の肩越しに花村と目が合った。
「あれ? 堂島さん?」
「お、おう、ジュネスの息子。お前も一緒だったんだな」
「ジュネッ! ……はぁ……ま、いーっすけど」
「花村だよ遼太郎さん」
堂島の返答にがっくりとうなだれた花村の頭を撫でながら、孝介が正す。
「月森ぃー……」
「はいはい、わかったわかった」
仲良くじゃれる二人に、先ほど言い聞かせたはずの胸が疼く。
『お前ら!! いい加減にしろよ!!』
「おー、わりぃわりぃ! ほら、行こうぜ月森。んじゃ、堂島さん失礼します!」
「あ、おい花村?」
身体こそ孝介から離したものの、その手を繋いだまま花村は他の友達のところへ歩き出す。引きずられるようにしてその場を離れた孝介が連れて行かれる先には、彼らの友人たちと現れた二人の姿を見てきゃあきゃあ喜ぶ女ども。
「ナンパっすかね、あれ。高校生の癖になっまいきー」
二人が合流したとたん、その腕に細い腕が絡み、ことさら胸を押し付けるようにして身体を寄せる。
「ガキが、何色気づいてんだ」
「やーあのくらいならあんなの普通っすよ」
さっき生意気と言った口でそれと正反対のことを足立が言う。事も無げな口調が堂島のカンに触ったのにも気づかず、足立は更に言葉を続けた。
「良いなぁ、混ぜてもらおうかなー」
「……足立」
「嘘々、冗談ですって」
そんな怖い顔で睨むなと言われ、そこで始めて堂島は自分の眉間に深い皺が刻まれていることに気づいた。その原因が足立の軽口に対するものでないことはわかる。わかるが認めたくはない。
「…………行くぞ」
「え、あ、堂島さん?! 待ってくださいよー」
いつまでも胸糞悪いものを見ているのが嫌で、今度こそ堂島は向きを変え稲羽に帰るべく歩を進め始めた。それを慌てて足立が追いかける。
「堂島さん、堂島さんってば!! 勘弁してくださいよぉ」
「うるさい、てめぇのせいですっかり遅くなっちまったじゃねぇか。さっさと帰るぞ」
「ええー、遅くなったのは堂島さんが悪いんじゃ……」
「あぁ?」
「……ってなんでもないっす」
文句を言う足立をひと睨みで黙らせて、駅に隣接している駐車場まで戻り、車の扉を開けようとした時。
「りょ、遼太郎さん……!」
さっき別れたはずの孝介が息を切らせて追いかけてきた。
「なんだ」
「……、お、……れ、も、帰ろう、と思って」
「帰るって、友達はどうした。それにまだ帰るような時間じゃないぞ」
いくら沖奈から稲羽までが時間かかるとは言っても、菜々子が帰るであろう夕方まではまだ大分ある。
「いいんだ。もう用は済んだし」
「済んだってお前……」
おそらくナンパの成功要員として花村共々呼び出されたに違いないが、その要が抜けてしまって成り立つのだろうか。
「稲羽まで帰るんでしょ? 一緒に乗せてってくれないかな」
「そりゃ、まぁ構わねぇが」
良くはわからないが、堂島たちが稲羽に帰るのは確かだ。署に戻ってまだ仕事はあるが、稲羽まで乗せて帰ってやるのはやぶさかではない。
それに―……。
「良かった。足立さん、すみませんお世話になります」
「あー……まあ良いや、堂島さんの機嫌直ったみたいだし」
「足立」
「うぇっ! はははい!」
確かに足立の言う通り、さっきまでのイライラがすっきりしてるのは否めない。
「俺が運転する。お前は後ろに乗れ」
「え?」
「孝介、ちゃんとシートベルト締めろよ?」
「うん」
そういうが早いか足立からキーを奪って運転席へと乗り込む。エンジンをかけてシートベルトを締めると、助手席に孝介が乗り込んできた。
「足立、お前もシートベルトしろ」
「えー……面倒く」
「締めろ。お前自覚が足りないんじゃないか」
「はいはいわかりましたよっと」
ごそごそやる足立を尻目に、孝介に視線を移す。
二人のやり取りを見てくすくすと笑う甥っ子の笑顔にドキリとした。
「行くぞ」
「うん」
「え、ちょっとま」
足立の抗議はまるっと無視して、堂島は高揚する気分を押し殺しながらゆっくりと車を発進させた。
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