【花主】ますかれーど (オフラインサンプル)
SCCにて頒布予定の新刊のサンプルです。
『ますかれーど』A5 36P / コピー / R18 / 400円
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「っだー!! 邪魔だっつーの!」
腰回りでひらひらとするチュチュを忌々しく叩きつける。当然その下には自分の腰があるわけで。思いきりそれに攻撃を喰らわせる事になり、うめき声を上げて蹲る陽介を、孝介は呆れたようにみつめた。
「馬鹿」
「うっせーっ! だいたい俺の装備品売っぱらっちまったお前が悪ぃんだろうが! ちったー自覚しろ自覚!」
どうしてこんなひらひらしたモノを装備しなくちゃいけなくなったかと言えば、全てはこの男、月森孝介のせいに他ならない。
だというのに当の本人はそんなことどこ吹く風で、さっきから文句言いっぱなしの陽介に冷たい言葉を浴びせかける。
「花村が置いて帰るからもう要らないのかと思ったんだろ。必要ならちゃんと自分で管理しとけよ」
「あ・の・な、お前が装備入れ替えるって言うから置いて帰ったんだ! 人のせいにすんな!」
基本的に装備品の管理は孝介が一手に引き受けていて、防具を買い換えるだけのお金が貯まった所で新しいものを買い、古いものを処分するという形をとってきた。
「しょうがないだろ、雨武者の鎧を買うには手持ちがちょっと足りなかったし、でもすぐテストだからバイトするわけにも行かなかったし」
そう、今回はたまたま微妙にお金が足りず、かと言ってバイトを突っ込むには既にテスト準備期間に入っていて、さすがの孝介にもそれは躊躇われた。
当然これ以上テレビの中に行く暇もなく、けれど最悪の事態を想定してできるだけ良い物を揃えて置きたい。
で、苦肉の策として、今ある装備を売ったお金を足して新しいものを買うことにしたのだが。
「しょうがねぇですめば警察要らないんですけどー」
「……それはおれに喧嘩売ってるのか?」
どこでどう間違ったのか、買うはずの雨武者の鎧は手元になく、入れ替え予定だった古い方の装備である滝登りの服もない。
あるのはこれまたとっくに処分したはずのそよ風のチュチュだけだった。
たぶん、夕飯の買い物のことを考えていたせいかな、とも思う。
ちょうどだいだら.で買い物をしている時に店の前をりせが通りかかったので、豆腐をお願いしようとカウンターを離れたのがいけなかった。
そんな訳で孝介も己に非があるのは重々承知していた。けれど、これだけ文句を言われた後だと、素直に謝る気も起きない。
「ちょっと二人とも、こんなところで止めなよね」
「そうクマ! 大きな声出すとシャドウが集まってくるクマよ!」
その後、装備を整えたのはテストが終わった後のこと。
開放感も手伝って、テレビに乗り込んできてみれば装備品がこの様だったわけだ。
せめて、もう少し早く気づいていれば、だいだら.の親父さんも融通利かせてくれたのかもしれないが、既に別のものの材料に成り果ててしまったそれでは、どうすることもできない。ましてや新しいものとなると、これまた手持ちがめちゃめちゃ足りない。
「ハ! どうせ今シャドウ狩りに来てんだからむしろそれでOKじゃねぇか!」
直斗も無事救出し仲間も増えた。
天気も晴れが続くようだし特に大事が起きる気配はないが、脅迫状のこともある。
今後いつどうなるかわからない現状を考えるに、一刻も早く新たな陽介の装備を買い揃えた方が良い。
手っ取り早いのはシャドウを狩る事だと、足りない装備をそのままにテレビの中へと勇んできたものの。
「良く考えたら別に俺行かなくてもいいんじゃね?」
既にメンバーは四人を超えて久しい。陽介をはずして戦闘にいけないことはない。
「ガルないと困るし」
「ガル要員かよ!! つかもうボコれるだろ、そのレベルなら!」
レベルも裕に五十は超えているわけで、陽介の言う通りボコるのは簡単だ。
「でも長く狩るんなら、ディアラマも欲しいし」
「天城いんだろ。 それにお前ペルソナ付け替えられるんだから、何とかしろよ」
確かに孝介のペルソナならどんな属性でもお手の物だ。本来ならわざわざ陽介に無理な装備をさせて引っ張り出すまでもない。
――が。
「今のおれの手持ち」
同じことを考えて先ほど自分のペルソナを見てみて、孝介は愕然とした。
「トートとモトと、一番強くてシキオウジだし」
「お前……なんだってそのチョイス……見事なまでに疾風が弱点じゃねぇかよ!」
辛うじてトートがメディラマ使えるが、それにしたって弱点衝かれたら使う暇などない。
「陽介のこと頼りにしてるからじゃないか」
するりとそんな台詞が口をつく。
事実、孝介のペルソナが偏っているのは、いつも陽介が一緒にいるからだ。お互いがお互いの弱点をフォローし合う相棒だからこその事。
それは陽介だってわかっているはずで、本来なら改めて口に出すことでもない。
けれど、今はこの台詞が一番効果的であることを孝介はわかっていた。そしてほぼ間違いなく陽介がそれに対して文句を言うことも。
「ンな時ばっか名前で呼びやがって」
案の定陽介が口にした言葉は微かな声音だったが、孝介の耳に届くという役は充分に果たした。
普段いくら言っても聞かず、今、その効力を最大限に使った自分は確かにずるいと思う。
「なんか言ったか?」
思うには思うがこの際手段は選んでいられない。ずるさついでに聞こえない振りもしてやる。
それら全てを表情変えずにやり遂げたつもりだが、一瞬目を見開いた陽介にはお見通しのようだ。
だが混ぜっ返すつもりもないのだろう。小さく『おまえな』と唇が動いたがあからさまなため息をついて目を伏せ、会話を仕切りなおした。
「人の装備売っぱらっといて言うことじゃねぇっつったの。付け替えてこいよ。疾風強いのいんだろ?」
「無理」
確かにマーガレットのところに行けば、スカディやヤツフサ、クーフーリンだっている。
けれど今いないと言う事は、当然引き出してくるにもそれ相応のお金がかかる。
で、現在そんなお金はびた一文もありはしない。
「何のためにここに来てるか忘れたのか」
「何のためって、金貯めるため……ってそこかよ結局」
事の次第を察した陽介はがっくりとうな垂れた。
合体でどうにかなる部分もあるのかもしれないが、それをするにはちょっとまだ惜しい。もう少し育ててスキルを覚えさせてしまいたいというのが孝介の本音だった。
陽介には甚だ申し訳ないが。
「先輩たち、痴話喧嘩はそのくらいにして早く行ってきたら? いつまでもそれ着てたいんだったら別にいーけど」
「痴話っ! ……あのなぁ」
さっきからのやり取りを聞いていていい加減ウザくなってきたりせが挟んだ台詞に、陽介は打ちのめされるように座り込んだ。
言われるまでもなくこうやってグダグダしている間にも時間は刻一刻と過ぎていくわけだから、とっとと装備を一新したいならこんなことしている場合ではない。
痴話喧嘩かどうか、はさておき。
「わかったよ、わかりました! 行きゃーいんだろ行きゃー」
いくら文句を言っても、孝介が一切譲る気がない事をいい加減理解できたのだろう。半ば自棄も手伝って陽介は膝を叩いて勢い良く立ち上がった。
続きは冊子をごらんください。
『ますかれーど』A5 36P / コピー / R18 / 400円
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「っだー!! 邪魔だっつーの!」
腰回りでひらひらとするチュチュを忌々しく叩きつける。当然その下には自分の腰があるわけで。思いきりそれに攻撃を喰らわせる事になり、うめき声を上げて蹲る陽介を、孝介は呆れたようにみつめた。
「馬鹿」
「うっせーっ! だいたい俺の装備品売っぱらっちまったお前が悪ぃんだろうが! ちったー自覚しろ自覚!」
どうしてこんなひらひらしたモノを装備しなくちゃいけなくなったかと言えば、全てはこの男、月森孝介のせいに他ならない。
だというのに当の本人はそんなことどこ吹く風で、さっきから文句言いっぱなしの陽介に冷たい言葉を浴びせかける。
「花村が置いて帰るからもう要らないのかと思ったんだろ。必要ならちゃんと自分で管理しとけよ」
「あ・の・な、お前が装備入れ替えるって言うから置いて帰ったんだ! 人のせいにすんな!」
基本的に装備品の管理は孝介が一手に引き受けていて、防具を買い換えるだけのお金が貯まった所で新しいものを買い、古いものを処分するという形をとってきた。
「しょうがないだろ、雨武者の鎧を買うには手持ちがちょっと足りなかったし、でもすぐテストだからバイトするわけにも行かなかったし」
そう、今回はたまたま微妙にお金が足りず、かと言ってバイトを突っ込むには既にテスト準備期間に入っていて、さすがの孝介にもそれは躊躇われた。
当然これ以上テレビの中に行く暇もなく、けれど最悪の事態を想定してできるだけ良い物を揃えて置きたい。
で、苦肉の策として、今ある装備を売ったお金を足して新しいものを買うことにしたのだが。
「しょうがねぇですめば警察要らないんですけどー」
「……それはおれに喧嘩売ってるのか?」
どこでどう間違ったのか、買うはずの雨武者の鎧は手元になく、入れ替え予定だった古い方の装備である滝登りの服もない。
あるのはこれまたとっくに処分したはずのそよ風のチュチュだけだった。
たぶん、夕飯の買い物のことを考えていたせいかな、とも思う。
ちょうどだいだら.で買い物をしている時に店の前をりせが通りかかったので、豆腐をお願いしようとカウンターを離れたのがいけなかった。
そんな訳で孝介も己に非があるのは重々承知していた。けれど、これだけ文句を言われた後だと、素直に謝る気も起きない。
「ちょっと二人とも、こんなところで止めなよね」
「そうクマ! 大きな声出すとシャドウが集まってくるクマよ!」
その後、装備を整えたのはテストが終わった後のこと。
開放感も手伝って、テレビに乗り込んできてみれば装備品がこの様だったわけだ。
せめて、もう少し早く気づいていれば、だいだら.の親父さんも融通利かせてくれたのかもしれないが、既に別のものの材料に成り果ててしまったそれでは、どうすることもできない。ましてや新しいものとなると、これまた手持ちがめちゃめちゃ足りない。
「ハ! どうせ今シャドウ狩りに来てんだからむしろそれでOKじゃねぇか!」
直斗も無事救出し仲間も増えた。
天気も晴れが続くようだし特に大事が起きる気配はないが、脅迫状のこともある。
今後いつどうなるかわからない現状を考えるに、一刻も早く新たな陽介の装備を買い揃えた方が良い。
手っ取り早いのはシャドウを狩る事だと、足りない装備をそのままにテレビの中へと勇んできたものの。
「良く考えたら別に俺行かなくてもいいんじゃね?」
既にメンバーは四人を超えて久しい。陽介をはずして戦闘にいけないことはない。
「ガルないと困るし」
「ガル要員かよ!! つかもうボコれるだろ、そのレベルなら!」
レベルも裕に五十は超えているわけで、陽介の言う通りボコるのは簡単だ。
「でも長く狩るんなら、ディアラマも欲しいし」
「天城いんだろ。 それにお前ペルソナ付け替えられるんだから、何とかしろよ」
確かに孝介のペルソナならどんな属性でもお手の物だ。本来ならわざわざ陽介に無理な装備をさせて引っ張り出すまでもない。
――が。
「今のおれの手持ち」
同じことを考えて先ほど自分のペルソナを見てみて、孝介は愕然とした。
「トートとモトと、一番強くてシキオウジだし」
「お前……なんだってそのチョイス……見事なまでに疾風が弱点じゃねぇかよ!」
辛うじてトートがメディラマ使えるが、それにしたって弱点衝かれたら使う暇などない。
「陽介のこと頼りにしてるからじゃないか」
するりとそんな台詞が口をつく。
事実、孝介のペルソナが偏っているのは、いつも陽介が一緒にいるからだ。お互いがお互いの弱点をフォローし合う相棒だからこその事。
それは陽介だってわかっているはずで、本来なら改めて口に出すことでもない。
けれど、今はこの台詞が一番効果的であることを孝介はわかっていた。そしてほぼ間違いなく陽介がそれに対して文句を言うことも。
「ンな時ばっか名前で呼びやがって」
案の定陽介が口にした言葉は微かな声音だったが、孝介の耳に届くという役は充分に果たした。
普段いくら言っても聞かず、今、その効力を最大限に使った自分は確かにずるいと思う。
「なんか言ったか?」
思うには思うがこの際手段は選んでいられない。ずるさついでに聞こえない振りもしてやる。
それら全てを表情変えずにやり遂げたつもりだが、一瞬目を見開いた陽介にはお見通しのようだ。
だが混ぜっ返すつもりもないのだろう。小さく『おまえな』と唇が動いたがあからさまなため息をついて目を伏せ、会話を仕切りなおした。
「人の装備売っぱらっといて言うことじゃねぇっつったの。付け替えてこいよ。疾風強いのいんだろ?」
「無理」
確かにマーガレットのところに行けば、スカディやヤツフサ、クーフーリンだっている。
けれど今いないと言う事は、当然引き出してくるにもそれ相応のお金がかかる。
で、現在そんなお金はびた一文もありはしない。
「何のためにここに来てるか忘れたのか」
「何のためって、金貯めるため……ってそこかよ結局」
事の次第を察した陽介はがっくりとうな垂れた。
合体でどうにかなる部分もあるのかもしれないが、それをするにはちょっとまだ惜しい。もう少し育ててスキルを覚えさせてしまいたいというのが孝介の本音だった。
陽介には甚だ申し訳ないが。
「先輩たち、痴話喧嘩はそのくらいにして早く行ってきたら? いつまでもそれ着てたいんだったら別にいーけど」
「痴話っ! ……あのなぁ」
さっきからのやり取りを聞いていていい加減ウザくなってきたりせが挟んだ台詞に、陽介は打ちのめされるように座り込んだ。
言われるまでもなくこうやってグダグダしている間にも時間は刻一刻と過ぎていくわけだから、とっとと装備を一新したいならこんなことしている場合ではない。
痴話喧嘩かどうか、はさておき。
「わかったよ、わかりました! 行きゃーいんだろ行きゃー」
いくら文句を言っても、孝介が一切譲る気がない事をいい加減理解できたのだろう。半ば自棄も手伝って陽介は膝を叩いて勢い良く立ち上がった。
続きは冊子をごらんください。