** 夏の夜空 **
ドーン! パラパラパラ…。 夏の夜空に大きな音と共に、昼間のような明るさが訪れ、大輪の花を咲かせていた。 橋の袂の河原では夜店がたち、この花火大会のメイン会場となっている。 そう、後500M程も歩けば…。 「ちょっと待ってろ」 そう言って乾は一人で会場まで走って行った。 純人が乾に、人込みに入るのは嫌だけど、たこ焼きが食べたいと言ったから。 「やっぱりオレって、かなりわがままだよね」 わかってはいる。しかしこれが一番簡単に乾の気持ちを確かめられる方法だと、 いつからか純人は思い込んでしまった。 「乾がわがまま聞いてくれるうちは、俺の事好きって事だもん。たこ焼きの次は何にしようかな…。 ヤキソバにしよっと。うん、縁日の定番だもんね」 河原の土手の上のガードレールに寄りかかり、下駄を履いた足をブラブラさせながら、夜空を見上げた。 花火の明かりが純人の顔を暗闇から照らし出す。 それを目印に、乾が小走りに戻ってきた。両手にはたこ焼きの入ってるであろうトレーが、一…二…三…? 「ほら買ってきたぞ。熱いうちに食おうぜ」 そう言って乾が手渡したのは確かにたこ焼き。でも、乾の手にあるのは、ヤキソバに、お好み焼き。 純人はその二つを不思議そうに眺め、乾の顔を覗きこむ。 「あ、これ? どうせ純人がまた買って来いって言うと思って。先手必勝」 自分の策略を見透かされてしまったのが面白くなくて、純人は 「別に、そんなの食べたくないもん。乾が全部食べなよね」 と、たこ焼きを口の中に放りこんだ。 「あ、バカ、純人!」 そう乾が言うのが早いか、純人があまりの熱さにたこ焼きを吐き出すのが早いか。 「熱〜ッ 舌火傷した…」 「だから最初に熱いって言ったろ? 大丈夫か?見せてみろ」 純人は言われた通りに舌を軽く出した。それを暗闇の中で花火の明かりを頼りに乾が診る。 「う〜ん…大した事はなさそうだな」 「そうだね、嘗めれば治るよね」 近付いてきていた乾の顔に向って、純人がニコッと笑った。 それに乾は『まったくこいつは』という表情応える。するとみるみる純人の頬が膨らんだ。 「ヤならいいよ」 プイッとそっぽを向いた純人に 「ヤな訳無いだろ」 と乾が応える。 そして大輪の光の花をバックに、の患部を治療するべく乾は純人にキスを落とした。 END |
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