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** 擬人化バルカン300 **


お菓子の箱と割り箸。糊付けされる事もなく作られたそれが、まさか…。

◆◇◆

「キヨマロ! バルカンを知らぬか? 先ほどまでここにおったのだがいつの間にか姿が見えなくなったのだ」

お菓子の箱に割り箸を刺しただけの、製作時間わずか5分のバルカンにガッシュがここまで執着するとは思わなかった。確かに友達といえるものはまだ出来てないみたいだし、俺に付いて学校に来るなんてそれこそとんでもない。だからこれは喜ぶべき事だよな。

「あ? 見てねーよ。さっきお前振り回してなかったか?」
「そうなのだ! さっきまで一緒だったのだ! それが私をおいてどこかへ飛んで行ってしまったのだ!」

そう言ってガッシュは自分の手をぶんぶんと振り回して見せる。その向こうには良い天気につられて開け放たれた窓。
それって…窓の外に投げちまったんじゃねーの? って言っても聞かねーだろうな…。

「そっかー飛んでっちまったか。ガッシュの相手するの飽きたんじゃねーか?」

お! いっちょ前に傷ついてやがる、今、『ガーン!』って効果音が聞こえたぞ?

「そんなはずはないのだ! バルカンは私の友達だぞ? 友達はいつも一緒に遊ぶものなのだろ? だったらバルカンが私を追いて行くはずないのだ! キヨマロ! バルカンを探しに行くぞ!」

あ〜…やぶへびだったか…。ちっちぇー手で作った握りこぶしを前に差し出すようにして意気込みやがって。あ〜めんどくせ〜…。せっかくの休日なんだから、少しはゆっくりさせろよ。

「んな心配しなくても、そのうち戻って来るだろ」
「うぬう…キヨマロ…」

わ…わかったよ…わかったからそんなでっかい目を潤ませないでくれ…すごく悪い事している気になるじゃねーか。

「しょーがねーな」

俺が重い腰をあげると、ガッシュは嬉しそうに俺によじ登って肩車をした。

「うぬ! ではバルカン捜索に出発だ!」
「はいはい…」

ピンポーン。

俺が力なく部屋の扉を開けたのとほぼ同時に、玄関のチャイムが鳴った。チッ…誰もいないのか。ま、外に出るついでだ。このままガッシュを肩車してても問題ないだろう。
『はーい』と返事をしつつ階段を降り、玄関の扉を開けた俺の目に飛び込んできたのは、見覚えのないガキだった。

「どちら様?」

そう問い掛ける俺に、そのガキは自分の着ているパーカーをグッと両手で前へ引っ張る。

「何なんだよ?」

一体何がしたいってんだ? パーカーがどうかしたのか?

「なんと! その模様は! お主もしやバルカンなのか?!」

は?! バルカン?!
ガッシュは慌てて俺から飛び降りると、そのパーカーの模様を食い入るように見ていた。確かにその模様は俺が箱に書いたメーターと同じに見える。キラキラと目を輝かせ訴えるガッシュに、そのガキはとても嬉しそうに頷く。

「やはり! お主バルカンだな! 私と遊ぶ為にその姿になったのだな!」
「お…おい…ガッシュ?」

んなばかな話あるか?! お菓子の箱だぞ? タダの! いきなりなんで人間に! んな不思議な事が起こるはずねーじゃねーか! って…そうか、ガッシュも充分不思議な事か。そーいやー髪の色もほのかにトマト色をしているような気も…。って引きずられてるんじゃねーよ、俺!
とか何とか、俺が自分に突っ込み入れてる間に、奴等打ち解けてやがる!

「キヨマロキヨマロ! 私はバルカンと共に遊びに行って来るぞ!」
『コクコクコク』

嬉々として手を繋ぎ外に出ていくあいつらを止める冷静さが、俺にあったはずもなく。

こうしてバルカンは人間になった。

◆◇◆

今日も今日とて朝からこの騒ぎ…もういい加減にしてくれ…。

「何故だ! バルカン、お主は何故私と遊ばない? 私とお主は友達だったのではないのか?」
『友達だけど、ボクはガッシュと遊ぶよりキヨマロといたいんだ』

どうやら話すことが出来ないらしいバルカンは、どこで覚えたのか文字を書く事が出来た。なのでこうして俺が渡してやったマジックとスケッチブックを使ってガッシュとやり取りをしてるんだが。
バルカンが人間になってからこっち、ずーっとこの調子だ。どうやらバルカンは作ってくれた俺を凄く気に入っていて、ずっと一緒にいたくて人間になったらしい。だが、ガッシュは自分と遊ぶ為に人間になったと思っているから、俺の後をついて回るバルカンが気に入らないんだ。

「キヨマローッ! バルカンが私と遊ばないのだ! キヨマロからも言ってくれ。友達は一緒に遊ぶものだとバルカンに言ってくれ!」

両足にすがりつく同じ大きさの2つの物体が、学校へ行こうとする俺を全力で妨害しやがる。

「おまえら! いい加減にしろ! 俺は学校に行くんだ! 帰ってきたら遊んでやるから、2人で仲良く留守番してるんだ。 わかったな」

渾身の力を込めて引き剥がすと、目線に降りて2人に言い聞かせる。しぶしぶ頷きその両手を取らせると、俺は鞄を持って玄関を出た。

その時、何となく振り向いた俺は……。

いや、まさかな。

バルカンが勝ち誇ったような笑みを俺に向かって浮かべたなんて…。

◆◇◆

キヨマロが学校に行ってしまった。でも、バルカンが一緒だから私は寂しくなんかないぞ! さっきまでケンカをしていたが、2人になれば実は仲がいいのだ。やっぱり友達はこうでなくてはな。

「バルカン、今日は何をして遊ぶのだ?」
『公園でかくれんぼしない?』
「うぬ、かくれんぼだな。では早速公園へ行くぞ」

キヨマロがしてくれたように、バルカンと手を繋いで公園へと歩く。今までバルカンと手をつないだ事がないわけではないが、その時のバルカンの手は割り箸だったのだ。あの時のバルカンももちろん好きだが、今のバルカンの方が一緒にいて何倍も楽しいのだ!

『じゃ、今日はボクが鬼になるね』
「では私は隠れるぞ」
『あの時計の針が一番上まで行ったら探すからね』
「わかった」

くるりと後ろを向いたバルカンを確かめてから、私は隠れる所を探した。するとちょうど時計の針が一番上に来た時、いい場所を見つけたのでそこに隠れる。そして、今か今かとバルカンが探しにくるのを待ちわびていたのだが、全然現れないではないか! もしやバルカンの身に何か…いや、そんなはずはない、バルカンは強いのだ!

「きっと私が隠れた場所があまりに凄くて、見つけるのが難しいのだ!」

仕方ない、私は優しい王様になるのだから、バルカンにも優しくなくてはな。

「うぬ、ここなら少しは見つけやすかろう」

さっきの場所より少し見つかりやすい所に場所を変えて、また隠れた。
そして、バルカンが来るのを今か今かと……。

「うが〜〜〜〜っ! こないではないかっ! バルカン! どこだバルカン! 私はここだぞ!」

公園をいくら探してもバルカンは見つからない。一体どこへ行ったのだ? バルカンは迷子になったのか?!

「バルカン! バルカン!」

◆◇◆

日が暮れるまで、私はバルカンを捜しつづけたが、とうとうバルカンを見つけることが出来なかった。

「もうキヨマロ帰ってきてるであろうな。バルカン、キヨマロと一緒に捜せば見つかるかもしれぬ」

とぼとぼと歩く私の目に、玄関先でキヨマロと楽しそうに笑っているバルカンが映る。

「バルカン! 先に帰っていたのだな!」

私は嬉しくなって2人に駆け寄った。

「ガッシュ! お前今までどこに行ってた! 何でバルカンと遊んでやらないんだ!」
「ナニ?」

私はバルカンと遊んでいたぞ? いなくなったのはバルカンなのだぞ?

『…………』

だというのに、何故バルカンはキヨマロの後ろから恨めしそうに私を眺めている?

「お前が遊んでくれないって、バルカンは泣きながら俺のとこに来たんだぞ」
「そんなことはない! 私はバルカンと遊んでいた! いなくなったのはバルカンではないかっ!」

つい大声で怒鳴った私の声に驚いたのか、バルカンが声も立てずに泣き出した。

「ガッシュ! バルカン泣いちゃったじゃないか! ほら、ごめんって謝れば誰も怒らないから」
「いやだ! 私は悪くない! バルカンが…バルカンが…」

不覚にも私の目にも涙が込み上げてきた。バルカン、私が嫌いなのか? 友達ではなかったのか? 友達を作る事も出来ない私は、魔界の王になどなれないのではないか?
ぐるぐると訳のわからない考えが頭を巡り、もう涙をこらえるのも辛かった。

と、その時。

『ガッシュ…ごめん』

涙をこらえる私にバルカンが近付いてきた。

『探しても見つからないから、ガッシュがどこかに行っちゃったと思ったんだ』

そして私の手をぎゅっと握る。

「私の方こそ悪かった。私はかくれんぼの天才だったのだな。次はもっと簡単な所に隠れる事にする」
『うん』

夕焼けの中両手を握り合い微笑みあう。かなり美しい友情ではないか? やはりバルカンは私の友達なのだな!

「は〜…いったいおまえら何なんだよ…。ほら、もう暗くなるから、家に入れ」
「うぬ、わかった」

キヨマロに返事をして、いつものようにその肩に登ろうとした私を突き飛ばし、私の代わりによじ登ったバルカンのその顔は…。

き…気のせいであろう。
私に対してバルカンがそんな、勝ち誇ったかのように笑うなど。気のせいに決まっている!

◆◇◆

「な…ガッシュ」
「なんだ?」
「……いや、なんでもねー」

『…………』

「おい……キヨマロ」
「なんだよ」
「………うぬぅ…何でもない」

『どうしたの? 2人とも』

「バルカン、おまえさ…」
「バルカン、お主…」

『何? ボクがどうかしたの?』

「………いや、別に…」

『変な2人』

――――――― 可愛い顔してこいつ、実はとんでもない奴なんじゃ?



END

某友人が主催している同盟
金色のガッシュベル!バルカン擬人化同盟に捧げたヘタレSSです。
いつもより更にヘタレ…なぜなら創作時間が2時間だから (爆)
タイトルだってありゃしない (笑) 適当にさっき見出しのつもりでつけました。
ま、雨野の中ではこんなバルカンなのよってことで (笑)

つーか、ここに掲載しても浮くよね…。

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