** Dear **
3月も終わりに近づいたある日、俺はいつものように秀臣ん家に来ていた。 「暖かくなってきたな」 「そやな」 「桜もちらほら咲いとるっちゅうに、なんで秀臣ん家まだコタツ出とるん?」 俺ん家なんかとっくに仕舞って、ちょっと寒いくらいや。でも、もうなくても困らへんほど暖かくなってる。 「そろそろ仕舞わなアカンかな。でもな…」 「なんや困る事でもあるん?」 不思議に思って秀臣の顔を覗きこんだ。そんな俺に秀臣はニヤッと笑って見せた。 なんや、いや〜な感じや。 「色々理由はあるけどな。一番の理由は…」 「理由は?」 その時、階下からおばちゃんの声がした。 「秀臣?巧君来とるん?何かもってこうか?」 「うん、食いモンもって来たって」 おばちゃんは『わかった』言うてなにやら用意してくれてはるらしい。 俺、秀臣ん家いいかげん顔パスやからな〜。今日はおばちゃん洗濯モン干しとって、挨拶もようせんかったから、俺がおるの今気いついたんやろうな。ん? 「何?何やこそばい」 脚の付け根がもぞもぞする。これって…? 「ちょ、秀臣何しとるん!」 「何ってお前の脚触ってる」 「触ってるって…あのな〜…。やっ、ちょお、止めろって。んっ、おばちゃん来る…でっ」 だんだん上に上がってきてる秀臣の手をどうにかどかそうと躍起になる。 だって、ヤバイやん。おばちゃん上がってきたらどないするっちゅうねん。 あ、ほら階段上がって来るって! 「秀臣ってば、止めや。うんっ、な」 「いやや。巧が我慢すればええだけなんやから、頑張り」 頑張りって、おい〜…。やめっ、って、そんなとこ触んな!あ。アカン!ドアが開く! 「お待ちど。ん?巧君どないしたん?」 う〜わ〜もうおばちゃんの顔見れへん!口あけたらヤバイ声出てまう! 俺は下を向いて、コタツに突っ伏す。瞼をぎゅっと閉じてこらえるしかないやん! 「なんや眠いらしいで。睡眠不足とちゃう?コタツに入るなり睡眠モードや。春眠暁を覚えずっちゅう奴かもしれんな」 「そうなん?大変やねえ」 ちゃうっておばちゃん!そうやない…信じんとって。いや、この場合信じてくれはったほうがええけど。秀臣の奴!!!ちくしょ〜〜〜っ!こんなんおばちゃんにバレるわけいかん…秀臣の言う通り狸寝入りするしかない。 「良いから、おかん。そこに置いてって。巧起きたら二人で食うよって」 ちょ!人が必死に寝たふりしてんのに、そんなとこ触んな!や〜め〜ろ〜!! 「そうして。あ、それからうち、ちょっと買い物行って来るさかい。巧君今日泊まってくんやろ?」 く…ダメだ…秀臣…身体震える…。おばちゃんこっち見んとってっ! 「ああ、夕飯頼むわ」 「ほな、留守番よろしく」 そうや、早よ出てって?もう限界や…ドア閉めてえな…。 おばちゃんが出てってからしばらくして、やっと秀臣が手ぇ離した。俺はこぶしを握り締め、秀臣に一発お見舞いしてやった! 「ひ〜で〜お〜み〜!!何考えとるん、自分!」 「てーなー。何って、お前んことに決まっとるやろ」 は〜〜…。溜め息出るわ、ほんま。いいかげんにせえ。コメカミがピクピクして来よった。 秀臣の奴、完全に俺のことからかっとる!くっそ〜〜〜!あ、こら、笑うんやない! 「くっクック。冗談やって、な、もう怒んな。でもこれで分かったやろ?」 「何がやっ!」 悔しくってしょうがない俺に、勝ち誇ったような顔をして秀臣が言うた。 「俺がコタツを仕舞わない訳」 …………………………。 誰かコイツ、殺したって。 END |
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